あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律で用いられている「免許」とは警察許可という意味であり、社会・公共の秩序を維持するために、ある行為の一般的な禁止を特定の場合に特定人に限り解除し、その行為が適法になされるようにする資格または身分を与える行政機関の行為のことである。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の業務を適法になすためには、施術者名簿に登録され、あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許、きゅう師免許を受けなければならない。
免許は「一身専属」であるから、これを相続したり人に譲ったりすることはできない。
医師以外の者であん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの施術を「業」としようとする者は免許を厚生労働大臣から受けなければならないが、国家がこのように一般の人があん摩マッサージ指圧、はり、きゅうを「業」とすることを禁じ、特に一定の資格条件を有する者に対してのみ許可していることの理由は、これらの施術行為が人体の健康に関し影響を与える行為であり、具体的な事故が発生した場合、その行為者(施術者)の責任を問うことはもちろん、事故を未然に防止しようとすることにある。
法第1条の規定は、医師は免許を受けなくともあん摩マッサージ指圧、はり、きゅうを業とすることができるということであるが、無条件で「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師」の免許を取得できるという意味ではない。
施術者が「業」として行うことのできる施術行為の範囲は、その免許にかかわる範囲内の「業」に限られる。
すなわち、あん摩マッサージ指圧師の「業」の範囲はあん摩マッサージ指圧のみであり、はり師の「業」の範囲は、はりのみである。
なお、「業」とは、反復継続の意志を持って行う行為をいい、報酬の有無や回数の多少にかかわらず、たとえ1回のみでも、反復継続の意志が認められる場合は「業」とみなされる。
医師以外の者であん摩マッサージ指圧、はり、きゅうを業としようとする者は厚生労働大臣の免許を取得しなければならないが、その免許資格を与えられるには、積極的要件・消極的要件を満たしていなければならない。
積極的要件とは免許を取得するために必要不可欠な絶対条件であり、消極的要件は欠格事由とも呼ばれ、業をなす者に存在してはならない不適当な欠陥のことである。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の免許を受けるためには、次の2つの要件を備えなければならない。
免許資格のうち、積極的要件を満たしている者であっても消極的要件に該当する者には免許が与えられないことがあり、免許取得後において消極的要件に該当するに至った場合には免許を取り消されることがある。
心身の障害とは、精神の機能の障害により、業務を適正に行うに当たり、必要な認知、判断および患者等との意志疏通を適切に行うことができない者。
上記に該当する者が免許の申請を行い、免許を与えるかどうかを決定する際に、厚生労働大臣は、当該申請者が受けている治療などにより障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない。
これについては、実際に刑を受けたか起訴されたかには関係なく免許が与えられないことがある。
免許に関する届け出は厚生労働大臣に対し行うが、実際に提出された書類の整理等、免許に関する事務を行うのは、厚生労働大臣によって指定された「指定登録機関」(財団法人東洋療法研修試験財団)が行うことになる。
免許に関する事務とは、厚生労働省(実際には厚生労働大臣の指定する指定登録機関)に、あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許、きゅう師免許に関する事項を登録する名簿を作成することを中心とし、それにかかわる事務的作業をいう。
免許の効力は名簿に登録されることによって発生する。
したがって、登録を終了した者(免許を与えられた者)は、免許証を所持していなくとも、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうを適法に業として行うことができる。
しかし、免許証を所持していても、名簿の登録が消除されている場合に行われた業は法第1条違反となる。
申請書に以下の書類を添え、厚生労働大臣に提出しなければならない。
あん摩マッサージ指圧師名簿、はり師名簿、きゅう師名簿に登録される事項は以下のとおりである。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師は、本籍地都道府県名・氏名に変更が生じた場合は、30日以内に名簿の訂正を申請しなければならない。
申請の方法は、申請書に戸籍謄本または抄本を添え、厚生労働大臣に提出する。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が死亡または失踪の宣告を受けた場合は30日以内に申請書を提出しなければならない。
この際の申請者は、戸籍法による死亡または失踪の届出義務者(同居の親戚・その他の同居者・家主、地主または家屋若しくは土地の管理人・同居の親戚以外の親戚)で、申請書にあん摩マッサージ指圧師免許証、はり師免許証、きゅう師免許証を添え、厚生労働大臣に提出する。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が所持している免許証の記載事項の内容に変更の生じた時は、厚生労働大臣に書換え交付申請をすることができる。
申請の方法は、申請書に変更の理由等必要事項を記入の上、免許証または免許証明書添えて厚生労働大臣に提出しなければならない。
何らかの理由で免許証を破損(破る・汚す)または紛失したときは免許証の再交付を申請することができる。
申請の方法は、破損等で免許証が手元にある場合は、申請書にそれを添え、手数料とともに厚生労働大臣に提出する。
なお免許証の紛失が再交付の申請理由となっている場合で、再交付を受けた後に紛失した免許証が発見された場合は、5日以内に古い免許証を返納しなければならない。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が欠格事由に該当する等の理由により免許を取り消された場合は、5日以内に免許証または免許証明書を厚生労働大臣に返納しなければならない。
また、「名簿の消除の申請」においても、申請者は免許証または免許証明書を厚生労働大臣に返納しなければならない。
上記以外にも、免許を返納しなければならないケースがある。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師がその資格を失う(免許を取り消される)場合としては、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師自身の自発的意志に基づく場合と、関係者の意志(死亡又は失踪宣告)により名簿の登録を消除し、免許証を返納する場合があることについては既に述べた。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が資格を失う場合としては、強制的に免許が取り消される場合、免許は取り消されないが強制的に業務を停止させられる場合もあるので、これらについて以下に述べる。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が欠格事由に該当した場合には、厚生労働大臣は、その内容の状況・程度を勘案した上で、免許を取り消すことができる。
この取り消しの際に、厚生労働大臣は、その処分を受ける相手に対してあらかじめ処分の理由を通知して、処分を受ける者にとっての有利な証拠の提出あるいは弁明の機会を当人に与えなければならない。
また、免許を取り消されたあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師は、5日以内に免許証を厚生労働大臣に返納しなければならない。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が欠格事由に該当した場合には、厚生労働大臣は一定期間業務の停止を命ずることができる。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が欠格事由により免許の取り消しあるいは業務の一時停止処分を受けた後に状況が変わり、欠格事由に該当しなくなった場合、厚生労働大臣は、当人からの申請の有無に関わらず再免許を与えることができ、または業務の停止処分をとくことができる。
著しい視覚障害のある者にあっては、当分の間高等学校に入学できる者であって、文部科学大臣の認定した学校又は厚生労働大臣の認定した養成施設において、あん摩マッサージ指圧師については3年以上、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師については5年以上必要な知識および技能を修得した者は試験を受けることができる。
昭和63年の法律改正以前にあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の免許を受けていた者は、その有する免許を、改正法の第1条に規定する免許とみなされる。
昭和63年の法改正の主な内容は、知事免許から厚生労働大臣免許となったこと、受験資格が学校教育法における大学に入学できる者となったこと、修業年限が3年となったことである。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師国家試験の受験資格を得るために卒業しなければならない学校あるいは養成施設とは、法第2条により「文部科学大臣または厚生労働大臣が認定したもの」でなければならない。
その認定という行政行為を確実に円滑に行うために「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師に係る学校養成施設認定規則」がある。
また、この認定規則の基準以外の理由で、法第19条では、視覚障害のあるあん摩マッサージ指圧師の生計が晴眼者の進出により著しく困難となる恐れのある場合はあん摩マッサージ指圧師に係る学校または養成施設の新設または定員の増加を認めないとしている。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の業務は業務独占であって、あん摩マッサージ指圧師免許を受けなければあん摩マッサージ指圧を業として行うことはできない。
また、この免許を得たからといって他の業務を行うことはできない。
業務独占とは、資格がなければその業務が行えない、資格がない状態でその業務を行うと刑罰の対象となるということで、名称独占とは、資格がなくてもその業務は行えるが、資格がなければその名称を名乗れないということである。
業務独占職種は同時に名称独占職種でもあるとされている。
看護・医療関係の職種で、その法律に業務独占に関する条文があるのは、医師、看護師、助産師、歯科医師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師などで、理学療法士、作業療法士などは、業務独占職種ではない。
施術者は、外科手術を行い、または薬品を投与し、若しくはその指示をする等の行為をしてはならない。
なお、外科手術や医薬品の指示・投与は、同時に医師法でも違反となる。
施術者は、医師の同意を得た場合の外、脱臼または骨折の患部に施術をしてはならない。
この同意は、患者が医師から同意を得ても、施術者が患者について医師から同意を得てもよい。
また、その同意の形式も、書面・口頭のどちらでもよい。
ただし、この同意を得る際には、対象となる患者が必ず医師の診察を受けていなければならず、あらかじめ医師から同意を得ておくことは許されない。
また、ここでの「医師」とは、骨折・脱臼を専門にしている医師、例えば整形外科医や外科医でなくてもよい。
法第6条には、「はり師は、はりを施そうとするときは、はり、手指及び施術の局部を消毒しなければならない」という規定がある。
しかし、あん摩マッサージ指圧師も、施術を行う際には手指等を消毒する等して、常に清潔を心掛ける必要がある。
医業においては、利益増加のためだけに患者を吸引することは患者が適正な医療を受ける機会を逃す可能性があるので望ましくない。
あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの施術所においても、何人も、いかなる方法によるを問わず、以下に掲げる事項以外の事項について、広告をしてはならない。
施術所の名称については、あはき法に規定はないが、医療法第3条において「類似名称の使用制限」として「疾病の治療(助産を含む)をなす場所であって、病院又は診療所でないものは、これに病院、病院分院、産院、療養所、診察所、医院その他病院又は診療所に紛らわしい名称を付けてはならない」と規定している。
施術所の名称で用いてはならないものとしては「医」「科」及び施術者の「流派に関するもの」又は施術者が得意としている「症状名」が挙げられる。
また、過去の事例では、松山はり院、松山きゅう療院は認められるが、松山療院、松山治療所という紛らわしい名称を付けることは許されなかった。
施術者は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。
施術者でなくなった後も同様である。
このことは、従来より守るべきものとされていたが、昭和63年の法改正により、法律上、義務付けられたことになる。
また、この守秘義務は、被害者の告訴による親告罪である。
施術所は、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう施術を行うために、法によって定められた特定の基準を満たした施設・設備を有する場所であることを意味する。
施術所を開設した者は開設後10日以内に以下の事項を施術所の所在地の都道府県知事に届出なければならない。
届出事項に変更を生じた時も同様である。
施術所の開設者が何らかの事情により施術所を休止した場合または廃止した場合(例えば施術所の開設者が施術者自身であって、法第9条の規定により業務の停止処分に処せられた場合等)には、その日から10日以内に施術所の所在地の都道府県知事に届出なければならない。
また、休止していた施術所を再開する場合にも同様である。
ただし、これに代わるべき適当な換気装置がある時はこの限りではない。
施術所での業務の場合には、施術所の開設届のみで、改めて業務開始の届出は必要ない。
施術者は、業務を開始した時に、その旨を記載した届出用紙を住所地の都道府県知事に提出しなければならない。
また、出張専業業務を休止・廃止・再開した場合も同様である。
施術者がその住所地の都道府県以外の地に滞在して業務を行う場合には、届出用紙を業務を行おうとする地の都道府県知事に提出しなければならない。
施術所の開廃・休止・再開、構造設備の概要についての届出、衛生上の措置が適法に正確になされているかを確認するために、都道府県知事はその実施状況を当該職員により臨検検査させることができ、また、必要によっては施術者または施術所の開設者から報告を提出させることができる。
この当該職員による臨検検査の際には、職員は、その身分を示す証票を携帯しなければならない。
都道府県知事の指示で、臨検検査が行われ、その結果、施術所の構造設備が基準に適合していない場合、また、衛生上の措置が取られておらず、清潔の保持がなされていないと判断された場合には都道府県知事は期間を定めて以下の措置を命ずることができる。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が欠格事由に該当する時、厚生労働大臣はその施術者の免許を取り消し又は期間を定めて業務を停止することができる。
業務停止の処分を受けた施術者は、その期間、業務ができないことになり、もしこの処分に違反した場合には、罰金に処せられる。
昭和63年の法改正で、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の資質向上が要求され、それとともに罰則が強化された。
試験委員が試験問題の作成及び採点について不正の行為をした場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
指定登録機関・指定試験機関の役員又は職員がその秘密保持義務に違反した場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
指定登録機関・指定試験機関の役員又は職員が登録事務・試験事務の停止命令に違反した場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
次の各項目のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処せられる。
なお、施術所に関する罰則は、法人に対しても科す両罰規定である。
次の各項目のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処せられる。
指定登録機関・指定試験機関の役員・職員が帳簿の必要事項について違反した場合、30万円以下の罰金に処せられる。
医師法第1条には「医師の任務」として「医師は医療及び保健指導を司ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を保持するものとする」と規定している。
また、同法第17条には「医師でない者の医業の禁止」として「医師でなければ医業をしてはならない」とある。
よって医業とは国民の健康の保持・増進を目的とし医師が行うものであるということになる。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師は医師ではないので、これらの行為は医業ではなく、医業類似行為ということになる。
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