内因 第2編 病因 FontSize:

第2編 病因

第1章 病因の一般

疾病の原因を病因という。病因は以下の2つに分けられる。

  1. 内因:原因が体内にあるもの(体質、遺伝、内分泌など)
  2. 外因:体外から作用・侵入たもの(熱、薬物、病原体など)

第2章 内因

内因には、次のものがある。

①素因 ②体質 ③遺伝、④内分泌 ⑤免疫 ⑥心因性因子

第1節 素因

素因とは、疾病にかかりやすい状態または性質をいう。

各素因の分類を以下に挙げる。

  1. 年齢素因:乳幼児期と高齢者。
  2. 性素因:男性と女性。
  3. 人種素因:日本人(胃癌、子宮癌、脳卒中にかかりやすい)と欧米人(大腸癌、乳癌、痛風にかかりやすい)。
  4. 臓器素因:感染症では病原体によって感染しやすい臓器が決まっている。
  5. 病的素因:疾病や生活環境による素因。疾病を起こしている個人に限って現れるため、個人的素因という。

第2節 体質

体質とは、遺伝子や環境によってつくられた形態的・機能的・性格的な特性をいう。体質が正常な範囲を超えると特定の疾病にかかりやすくなる。このような体質を異常体質という。

異常体質の分類は以下のとおりである。

  1. 無力性体質:やせていて、筋肉や結合組織の発育が悪い。内臓下垂や肺結核症を起こしやすい。
  2. 関節性体質(卒中体質):肥満して頚は太くて短い。痛風、動脈硬化症、脳卒中などにかかりやすい。
  3. 発育不全体質:循環器や生殖器の発育が不良で、小児形を呈する。
  4. 児形体質(小児症):心身の発育が遅く、成人になっても小児期の状態にとどまっている。
  5. 血管神経性体質:心臓・血管系統が過敏で、機能異常を起こすことが多い。片頭痛、高血圧、低血圧、胃十二指腸潰瘍を起こしやすい。
  6. 浸出性体質:皮膚や粘膜に浸出性の反応を起こしやすい。滲出とは炎症でみられる体液の貯留(水腫)である。乳幼児に多く見られる。皮膚の湿疹、上気道炎、胃腸粘膜のカタル性炎を起こしやすい。
  7. アレルギー体質:正常の人では影響のない物質に過敏に反応する。気管支喘息、花粉症、じん麻疹などのアレルギー性疾患にかかりやすい。また、特定の食物や薬剤によって嘔吐や薬疹などを発症するものを特異体質という。

第3節 遺伝染色体異常

遺伝子や染色体の異常が原因となる疾患には次の2つがある。

  1. 遺伝性疾患:遺伝子の異常。疾病は子どもに遺伝する。
  2. 染色体異常:染色体の異常。原則として子どもには遺伝しない。

1 遺伝性疾患

 遺伝性疾患は以下の4つに分類される。

(1)伴性遺伝疾患

X染色体の遺伝子の異常により起こる劣性の遺伝性疾患。

男性に発症する疾患である(男性は劣性遺伝子)。

(2)常染色体性優性遺伝疾患

常染色体の遺伝子の異常により起こる優性の遺伝性疾患。

劣性に比べて発症時期が遅く、症状も一般的に軽い。

(3)常染色体性劣性遺伝疾患

常染色体の遺伝子の異常により起こる劣性の遺伝性疾患。近親結婚によって現れることが多く、ほとんどの場合両親は正常である。

(4)多数の遺伝子によるもの

複数の遺伝子が発症に関与する遺伝性疾患。自然環境や生活環境が関与して起こるものが多い。

2 染色体異常

染色体異常以下の2つに分類される。染色体異常を起こす疾患は次のとおりである。

1)性染色体異常
  1. クラインフェルター症候群(XXY):X染色体が2~3本ある男性。
  2. ターナー症候群(45X):X染色体が1本しかない女性。知能障害や心臓の奇形、特有な顔貌を認める。
2)常染色体異常
  1. ダウン症候群(21トリソミー):21番目の染色体異常。一部が切れて3本に見える。
  2. 猫鳴き症候群:5番目の染色体異常。染色体の一部が欠損している。
  3. 慢性骨髄性白血病:22番目の染色体異常。一部が欠損している。これをフィラデルフィア染色体という。

3 奇形

奇形とは、胎児の発育途上に発生した形態的な異常をいう(出生後は形態異常)。

奇形が最も起こりやすい妊娠時期は妊娠3か月(10週)までの妊娠初期である。

奇形の原因を催奇形因子という。

第4節 内分泌

内分泌異常による疾患は、機能亢進症と機能低下症に分けられる。

第5節 心因性疾患

心因性疾患とは、心理的な要因が原因となって発症する疾患をいい、臓器や組織に器質的な障害はみられない特徴がある。

主な疾患として、心因性下痢、心因性頭痛などがある。

第3章 外因

外因は、次の4つに分類される。

  1. 栄養素の供給障害
  2. 物理的病因
  3. 化学的病因
  4. 生物的病因

第1節 栄養素の供給障害

1 飢餓

飢餓とは、栄養素の供給が不足している状態をいう。飢餓には、絶対飢餓(栄養素のすべてが不足)と、部分飢餓(一部が不足)がある。

絶対飢餓が続くと、まず、体内の貯蔵グリコーゲンや脂肪が消費される。次に血液中や組織・臓器を作っている蛋白質もエネルギーとして流用される。このとき、体重や内蔵の重量が減少するが、脳の重量は減らない。

絶対飢餓状態でも、水の供給があれば60日程度は生きられる。

2 蛋白質

不足により、浮腫(アルブミン濃度の低下)、組織・臓器の実質細胞の萎縮が起こる。その結果、小腸上皮の吸収機能の低下、肝臓の解毒機能の低下、貧血が起こる。他、免疫力低下(免疫グロブリン産生障害)。が起こる。

3 脂質(脂肪)

  1. 過剰:高脂血症、動脈硬化症。
  2. 不足:脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収障害、ステロイドホルモンの不足。

4 炭水化物(糖質)

過剰:肥満症、糖尿病。

★食物線維:炭水化物に属するが人ではエネルギー源にはならない。腸の蠕動運動を促進し、腸内容物の排泄を良くする。

5 ビタミン

主なビタミン欠乏症については、「第5章 復習問題」を参照。

6 無機塩類(ミネラル)

7 水

(1)脱水症

過剰な発汗、下痢などにより体内の水分が不足すると、皮膚・粘膜の乾燥、乏尿、高ナトリウム血症が起こる。また、血液浸透圧の上昇により意識障害などの神経症状を現す。

(2)水中毒

水の過剰摂取、排泄障害により体内の水分量が過剰になると、血液浸透圧の低下、低ナトリウム血症などを起こし、頭痛、吐き気、脱力、痙攣、錯乱、昏睡を起こす。

第2節 物理的病因作用

1 機械的外力

外力によって組織破壊を起こしたものを外傷という。主な外傷には次のようなものがある。

(1)創傷

皮膚表面の損傷。切創、刺創、擦過傷(擦り傷)、裂傷、銃創、咬傷などがある。

(2)挫傷

皮下組織や深部の組織の損傷。挫傷には次のものが挙げられる。

  1. 捻挫:関節に無理な外力が作用し、周囲の軟部組織(靭帯・腱・関節包)に損傷を起こしたもの。
  2. 脱臼:関節に捻挫よりも強い外力が作用し、関節を構成している骨の位置関係が正常でなくなった状態。
  3. 骨折:外力により骨組織が損傷したもの。
(3)その他
  1. 褥瘡:床ずれのことで、長い間寝たきりの場合などに起こる。骨が皮下の浅いところにある部位(肩甲骨や仙骨部、かかとなど)に起こりやすい。
  2. 乗り物酔い:振動や揺れなどの外力が全身に作用することにより起こるもの。

2 温度

(1)高温

生体の一部に50℃以上の高温のものが触れると、蛋白凝固が起こり組織壊死に至る。これを熱傷という。

局所に起こる熱傷は、障害の程度により4段階に分けられる。

★低温火傷:45~50℃の温度でも、長時間作用し続けると火傷を起こす。カイロ、アンカなどを長時間使用した時に起こる。

全身性の熱傷について、第2度以上の熱傷が体表面積の20%以上に及ぶと、生命が危険になることがある。

また、高温・多湿環境下で長時間の作業を続けると熱中症を起こす。多湿環境下では、皮膚や肺からの熱放散が困難になり、40℃以上の高熱と意識混濁をきたす。

★日射病:直射日光に長時間当たって起こったものをいう。

(2)低温

局所の皮膚に寒冷刺激が作用すると凍傷が起こる。障害の程度により4段階に分けられる。

低温のため体温が25℃以下になると低体温症を起こし、意識を失い凍死する。

3 電流

生体に電流が流れることを感電という。また、落雷のように強い電流が流れることを電撃という。

一般に、直流よりも交流の方が生体への影響は大きく、家庭用100Vの交流でも心停止、呼吸停止が起こることがある。

局所に放電を受けると、熱作用により火傷を起こし、電撃班(樹枝状の膨隆した赤い線状班)を生じる。

全身に強い電流が流れると、全身の筋収縮により激痛を感じる。電流が脳幹を流れると呼吸麻痺、心臓に流れると心停止を起こし感電死する。

4 光線

主な光線には可視光線、紫外線、赤外線がある。

5 放射線

放射線には、X線やγ線などの電子放射線、α線・β線・電子線・中性子線・陽子線などの粒子線がある。

放射線は増殖力の盛んな細胞や組織(骨髄の増血細胞・リンパ節・生殖細胞・表皮など)に対して強く作用し障害を与える。

6 音波

甚だしい騒音環境では難聴になる。また、睡眠不足や作業効率の低下の原因ともなる。

7 気圧

  1. 潜函病(潜水夫病、ケイソン病):水中のような高圧の環境下で起こる。水中から急に普通の気圧にもどると、血液中に溶け込んでいた窒素が気泡となって毛細血管を閉塞し、塞栓症を起こす。
  2. 高山病(山岳病、航空機病):3,000m以上の山など、気圧の低い環境下で起こる。酸素不足のためにめまい、頭痛、呼吸数や脈拍数の増加、意識の障害などを起こす。また、このような環境に順応すれば多血症、骨髄細胞の増殖が起こる。

第3節 化学的病因作用

生体に化学的に作用して障害を与える物質を毒物という。毒物は次の2つに分類される。

  1. 接触毒:皮膚や粘膜に接触して障害を与える。
  2. 中毒:血中に吸収されて障害を起こす。

1 接触毒

  1. 酸:塩酸・硫酸・硝酸、昇汞は蛋白質を凝固させる。
  2. アルカリ:苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)・苛性カリ(水酸化カリウム)は蛋白質を溶かす。
  3. ガス:ホルマリンガス、亜硫酸ガス、塩素ガス、マスタードガスは気道粘膜に障害を与える。

2 中毒

ごく少量でも猛毒のものと、少量では無害であるが長期間にわたって体内に蓄積されて障害を現すものがある。

主な中毒物質には次のようなものがある。

(1)動植物
  1. 動物毒:蛇毒、蜂毒、クラゲ毒、ふぐ毒(テトロドトキシン)。
  2. 植物毒:サポニン、茸毒、カビ毒(アフラトキシン)、細菌毒(マイコトキシン)。
(2)気体
  1. 一酸化炭素(CO):ヘモグロビンに対して酸素の200倍の結合力を持ち、空気中に0.1%含有すれば、細胞に酸素を供給できなくなる(内窒息)。内窒息により筋麻痺や意識障害を起こし、死亡する。
  2. 青酸(HCN):内窒息を起こす。
  3. ベンゼン:神経毒で、吸入すると意識障害を起こす。慢性中毒では骨髄を侵し、出血傾向や再生不良性貧血となる。
  4. 過酸化窒素(NOx):光化学スモッグの原因物質の1つで、気道や眼球粘膜の炎症を起こす。
(3)粉塵・液体

3 医原病

医原病とは、疾病の治療に用いられる薬剤の副作用として起こる障害をいう。医原病を引き起こす薬剤には次のものがある。

  1. サリドマイド:睡眠薬、ハンセン病治療薬。海豹肢症を起こす。
  2. ストレプトマイシン:結核の抗生物質。聴覚障害を起こす。
  3. キノフォルム:下痢止め。スモン病を起こす。使用禁止になった。
  4. ペニシリン:解熱剤。アナフィラキシー・ショックを起こす。

4 環境汚染

5 環境ホルモン

ホルモン様の作用を持つ人工の化学物質。

ダイオキシン・DDT・BHC・PCBなど70種以上あり、生殖機能異常、悪性腫瘍や奇形の発症などの原因と考えられている。

6 自家中毒

自己の体内で発生した有毒物質によって起こる中毒を自家中毒という。

腸管内での発酵によって起こるもの、ケトアシドーシス(糖尿病による)、尿毒症(腎不全による)などがある。

★妊娠高血圧症候群:以前の妊娠中毒。原因が中毒でないことが分かり、名称が変更された。

第4節 生物学的病因作用

生物による疾病とは感染症のことである。これには、病原微生物と動物性寄生体がある。

1 病原微生物

病原微生物の特徴は以下の通りである。なお、

(1)ウイルス

大きさは細菌よりもはるかに小さい。核はDNAかRNAの一方しかなく、他の細胞小器官は持っていない。そのため生きた細胞内に寄生しなければ増殖できない。

ウイルスは、DNAウイルスとRNAウイルスに分けられる。

(2)細菌

単細胞生物で、その形により球菌、杆菌、らせん状菌に分けられる。

らせん状菌はスピロヘータともいわれる。

(3)リケッチア

小型の細菌で光学顕微鏡でも見える。ウイルスのように生きた細胞の中でしか増殖できない。ダニやシラミを介してヒトに感染する。

(4)クラミジア

大きさ・構造がリケッチアに似ている。ウイルスと細菌の中間に位置する微生物である。

(5)真菌

カビや酵母によって発症する疾病を真菌症という。日和見感染で現れることが多い。

(6)プリオン

蛋白質だけからなる物質で、生物ではない。

(7)原虫

厳密には動物性病原体に分類される単細胞生物。

2 病原微生物の病因作用

(1)感染と発症
  1. 感染:病原体が生体に侵入すること。
  2. 発症:病原体が感染し、症状が現れること。発病ともいう。
  3. 不顕性感染:感染しても発症しない場合。感染しているので抗体は作られる。
(2)病原体の毒素
  1. 体外毒素(エクソトキシン):菌体から放出される毒素。体内毒素よりも毒性が強い。放出する細菌は少なく、破傷風菌、ジフテリア菌、コレラ菌、ボツリヌス菌などである。
  2. 体内毒素(エンドトキシン):菌体内に毒素を持ち、菌が破壊された時に放出される毒素。

(3)日和見感染

免疫力の低下により、感染力の弱い病原体に感染・発症しやすくなった状態である。

第4章 加齢老化

老化とは、加齢に伴う生理的機能の減退のことである。

老化によってほとんどの臨床検査所見は変化を受けやすい。一方、ナトリウムイオンなどの電解質濃度は加齢による影響を受けにくい。これは、電解質濃度を一定に保つことが生命の維持に必要だからである。

加齢による臓器機能の低下は臓器の実質細胞の数の減少、消耗色素(リポフスチン)の蓄積、間質の硬化を伴っている。個体全体としてもホメオスターシス機構が緩やかに低下し、感染や種々のストレスに対する抵抗力及び回復力の減退により疾患にかかりやすくなる。