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第4編 退行性病変

 退行性病変とは、組織や細胞の代謝に異常が起こり、消極的反応すなわち機能低下を起こした状態をいう。

退行性病変には次の3つがある。

(1)萎縮 (2)変性 (3)壊死

第1章 萎縮

 萎縮とは、一度発育した組織や臓器が、何らかの原因で小さくなることである。組織・臓器の機能は低下する。

第1節 萎縮の性状による分類

1 単純萎縮と数的萎縮

  1. 単純萎縮:個々の細胞の大きさが小さくなることにより、組織・臓器が小さくなるもの。
  2. 数的萎縮:細胞の数が減少することにより、組織・臓器が小さくなるもの。

2 真性萎縮・変性萎縮

  1. 真性萎縮:組織や臓器の性状には変化がなく、容積だけが小さくなるもの。
  2. 変性萎縮:組織や臓器の性状に変化(変性)が起こるもの。

3 偽性肥大

臓器の実質細胞は萎縮しているが、見かけは大きく見えるもの。

萎縮した実質細胞のすき間に間質細胞(主に結合組織や脂肪組織)が増殖するために、臓器全体が大きく見える。

疾患:肝硬変、腎硬化症

第2節 萎縮の原因による分類

1 全身性萎縮

全身がほぼ平等に萎縮するもの。

生理的なものとして老人性萎縮、病的なものとして飢餓萎縮、悪液質性萎縮がある。

☆悪液質:癌の末期や重症の感染症によって、蛋白質・炭水化物が不足した状態。

☆褐色萎縮:リポフスチン(消耗性色素)の沈着を伴う臓器、組織、細胞の萎縮。

2 局所性萎縮

  1. 生理的萎縮:年齢の経過とともに現れる萎縮。

    例:思春期以後の胸腺、更年期以後の卵巣

  2. 圧迫性萎縮:持続的に圧迫されたために起こる萎縮。動脈瘤では脊椎骨が、コルセットの使用では肝臓が、脳腫瘍では神経が萎縮を起こす。

    例:動脈瘤、コルセット、脳腫瘍

  3. 不動作性萎縮(廃用性萎縮または無為萎縮):長期間機能を停止していたために起こる萎縮。ギプス固定後では骨格筋が、眼球摘出後では視神経が萎縮を起こす。

    例:ギプス固定後、眼球摘出後

  4. 貧血性萎縮(栄養障害性萎縮):血液の流れが悪くなったために起こる萎縮。動脈硬化により萎縮腎が起こる。

    例:動脈硬化、萎縮腎

  5. 神経性萎縮:神経の機能障害により起こる支配筋の萎縮。

    例:脳卒中後遺症,末梢神経麻痺

  6. 内分泌性萎縮:下垂体前葉の機能低下(シーハン症候群)により甲状腺や性腺の萎縮が起こる。

    例:シーハン症候群

  7. 放射線性萎縮:性腺・骨髄の萎縮が起こる。

    例:性腺・骨髄

第3節 萎縮の徴候と結果

局所は小さく硬くなり、機能は低下する。

褐色萎縮:老化や飢餓による萎縮では、組織内にリポフスチンと呼ばれる褐色の色素が沈着することがある。シミやくすみの原因となる。

第2章 変性

第1節 変性の概念

細胞の物質代謝が障害され、細胞や組織内に代謝物質が蓄積された状態。

蓄積された代謝産物には、生理的に存在する物質の他に、生理的に存在しない物質も含まれる。

第2節 変性の分類

変性は原因物質により、蛋白質変性、脂肪変性、糖原変性、石灰変性、色素変性の5つに分類される。

1 蛋白質変性

蛋白質が組織・臓器に過剰に沈着した状態。

1.蛋白質変性の分類
  1. 混濁腫脹

    感染や中毒症によって起こる。組織や臓器が膨大し、細かい蛋白質の顆粒が現れるため濁って見える。肝臓や腎臓など実質臓器にみられるので、実質変性ともいう。

  2. 空胞変性(水腫様変性)

    細胞の水代謝(ナトリウムポンプ)が障害されて起こる。細胞内の水が空胞状に分離したり、細胞全体が水腫のようになるもの。

  3. 硝子変性(硝子化)

    結合組織に、硝子質(ヒアリン)が沈着するもの。古くなった瘢痕組織にみられる。

  4. 硝子滴変性

    細胞内に、大小の硝子様蛋白顆粒がみられるもの。腎尿細管上皮や肝臓・副腎の実質細胞中に認められる。原因は不明。

  5. 角化変性

    持続的な刺激によって、皮膚や粘膜の角化現象が盛んになり角質の量が増えるもので、たこ・魚の目・魚鱗癬などがある。一般的には過角化症と呼ぶ。

    例:たこ、魚の目、魚鱗癬

  6. アミロイド変性(類デンプン変性)

    アミロイドと呼ばれるデンプンのような特異な性質を持った蛋白質が現れるもの。全身の小血管壁に沈着し、尿毒症や心不全を引き起こす。

    例:アミロイドーシス

    ☆アミロイドーシス:全身の臓器・組織にアミロイドが沈着する疾患。慢性の炎症性疾患、多発性骨髄腫でみられるほか、原因不明のものもある。

(2)痛風

 高尿酸血症が長期間続き、尿酸塩が関節軟骨や関節周囲組織に沈着して起こる急性の関節炎。

痛風(高尿酸血症)の原因は、肉や魚などの動物性蛋白の過剰摂取や遺伝である。蛋白質の分解過程でプリン体が産生され、さらに大量の尿酸に分解されるために起こる。高尿酸血症は、腎臓の機能を障害したり、尿路結石の原因になる。

☆痛風:蛋白質の分解産物が関節に蓄積したもの。

2 脂肪変性

 脂質が細胞や組織内に過剰に沈着する状態。原因は、脂質や糖質の過剰摂取、組織の酸素欠乏(貧血やうっ血)、内分泌異常(糖尿病、クッシング症候群)、遺伝性脂肪分解酵素欠損(ゴーシェ病、ニーマンピック病)である。

1.脂質異常症と肥満症
  1. 脂質異常症:血中の中性脂肪やコレステロール値が異常に高いまたは低い状態。
  2. 高脂血症:脂質異常症のうち、中性脂肪やコレステロール値(特にLDL)が高い状態。

     原因:組織の酸素欠乏、糖尿病、クッシング症候群、ゴーシェ病、ニーマンピック病

  3. 肥満症:皮下組織やその他の脂肪組織に、多量の脂肪が蓄積している状態。脂肪変性を起こしやすい臓器には、肝臓(脂肪肝)、心臓(脂肪心)、腎尿細管上皮、廃用性萎縮を起こした筋・血管がある。
2.粥状動脈硬化症
  1. 動脈硬化:動脈壁の内膜が肥厚し、弾性が低下した状態。
  2. 動脈硬化症:動脈硬化によって虚血や血栓などの循環障害が発生した状態。
  3. 粥状動脈硬化症:血管内壁に脂肪(アテローム)が沈着して起こった動脈硬化症。

☆粥状動脈硬化症の合併症

  1. 高血圧・狭心症:血管の狭窄や弾性の低下により起こる。
  2. 心筋梗塞・脳梗塞:血栓形成により起こる。

    ☆アテローム(粥腫):血管内壁に脂肪が沈着したもの。血管内腔の狭窄を起こすほか、内皮細胞を壊死させ血栓を形成しやすくする。

3 糖原変性

 糖原(グリコーゲン)が細胞内に異常に多く貯留した状態。

 グリコーゲンは、肝臓・腎蔵・心臓・グリア細胞に沈着しやすく、腎障害・昏睡を引き起こす。

糖原変性には、糖原病と糖尿病がある。

  1. 糖尿病

     先天的にグリコーゲンを分解する酵素が欠損する疾患。

  2. 糖尿病

     糖(グルコース)の利用が障害されて高血糖の状態が続くこと。

 糖尿病(原発性糖尿病)は、1型と2型に分けられる。

  1. 1型糖尿病

     インスリン分泌量の低下によって起こる。インスリン依存型。20歳までに発症するため若年型糖尿病といわれる。その発症には、遺伝的要素、免疫学的異常が関係しているが、特に膵島のインスリン分泌細胞の自己免疫異常による破壊が重要な要因となっている。

  2. 2型糖尿病

     インスリンに対する反応性が低下したもの。インスリン非依存型。成人になって発症し、糖尿病患者の大部分を占める。発症には、遺伝的要因が関係しているが、食生活や運動不足などの生活習慣の関与も重要である。

     糖尿病の合併症は次の2つがある。

    ア.糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性ニューロパチー(神経障害):糖尿病の三大合併症といわれ、微小血管の障害により起こる。

    イ.動脈硬化:高血糖は高脂血症を引き起こし、大血管を障害する。

4 石灰変性

リン酸カルシウムや炭酸カルシウムが組織に沈着するもの。

原因には、カルシウムの吸収促進(ビタミンDの過剰摂取)、副甲状腺機能亢進、骨破壊(骨腫瘍)がある。

石灰変性を起こしやすい臓器には、肺、腎臓、胃がある。血漿カルシウム値が正常であっても、変性や壊死を起こした組織、古い結核病巣、貧血性梗塞部、血栓、動脈硬化を起こした血管壁などに沈着する。

5 色素変性

色素が組織中に異常に沈着した状態。色素変性を起こす色素には、体内で生成されるものと、体外から吸収されるものがある。

1.色素変性の分類
  1. メラニン

    生理的には皮膚、毛髪、網膜に存在する黒褐色の色素。そばかす(雀卵斑)、ほくろ(色素性母斑)、日焼け、妊娠性褐色斑、アジソン病、悪性黒色腫(メラノーマ)でみられる。

    例:アジソン病、メラノーマ

  2. リポフスチン(死褐素)

    生理的には心筋、横紋筋、腎上皮、神経節などに存在する。癌など消耗性疾患の時に著しく増加するので消耗性色素ともいう。

    例:退行性病変、消耗性疾患

  3. ビリルビン(ヘマトイジン)

     ヘモグロビンが分解されて生じる。鉄を含まない黄金色の色素。

    例:黄疸

  4. 血鉄素(ヘモジデリン)

    ヘモグロビンが細網内皮系で分解されたもの。鉄を含んでいる。血鉄素が沈着することを血鉄素症(ヘモジデローシス)という。多量の輸血や溶血の後で、肝臓や脾臓にみられる。

  5. 体外色素による変性

    刺青、炭粉症、柑皮症がある。

    ☆柑皮症(カロチノージス):みかんやかぼちゃを大量に摂取し、カロチンが皮膚などに沈着する。

2.黄疸

血液中のビリルビンが増加し、全身の組織が黄色くなること。

代謝過程が障害される部位により、次の3つに分類される。

  1. 肝前性黄疸:間接型ビリルビンが大量に生成され、肝臓で処理できなくなって起こる。

     例:溶血性黄疸、新生児重症黄疸

  2. 肝細胞性黄疸:肝細胞が障害されて胆道への排泄能が低下し、主に直接型ビリルビンが流出する。

     例:肝疾患

  3. 肝後性黄疸(閉塞性黄疸):胆道が閉塞して胆汁(直接型ビリルビン)が逆流して起こる。

    例:胆石症、胆道の腫瘍

    肝細胞性黄疸や閉塞性黄疸では、脂肪便、ウロビリノーゲン減少、尿中ビリルビン値上昇が起こる。これは、胆汁の排出障害によりウロビリノーゲンに変換されず、直接型ビリルビンが増加するために起こる。

第3章 壊死と死

第1節 壊死

 生体組織が部分的に死滅すること。

1 壊死の原因

局所の循環障害による虚血、高温や低温、放射線などの物理的作用、中毒、細菌やウイルスなどの生物の作用がある。

2 壊死の分類

  1. 凝固壊死

    壊死した組織がそのまま凝固して残ったもの。全体として硬くなり、回りの組織より少し膨隆する。心筋梗塞巣をはじめ、多くの壊死組織にみられる。

  2. 融解壊死

    壊死に陥った組織が次第に融けるもの。中枢神経の壊死でみられる。

  3. 壊疽(脱疽)

    壊死組織が二次的に変化したもの。

  4. 湿性壊疽

    腐敗菌の作用によって壊死組織が腐敗し、悪臭を放つもの。肺壊疽、壊疽性子宮内膜炎でみられる。

  5. 乾性壊疽(ミイラ化)

    壊死巣が乾燥し、硬化したもの。動脈硬化症によって四肢先端に発生する。

3 壊死の転帰

壊死に陥った組織は個体にとっては異物であり、貪食細胞によって貪食・処理される。それが不可能な場合は、結合組織によって健康な組織との間に分界線ができ、被包化される。結核の乾酪巣は次第に吸収され空洞化する。心筋の凝固壊死は集まってきた白血球に含まれる蛋白分解酵素により分解され、その後侵入してくる結合組織によって瘢痕化する。

脳などの軟化巣は、周辺に神経膠細胞と膠線維が増加して分隔され、軟化性嚢胞となる。

4 アポトーシス

生理的な細胞死、細胞の寿命のこと。細胞の寿命は個々の細胞によって異なり、赤血球の寿命は約120日である。

第2節 死

1 死の定義

個体の機能が永久に停止すること。

一般的な死の判定基準は次の3つが24時間以上継続することである。

  1. 心拍動の停止
  2. 自発呼吸の停止
  3. 中枢神経機能の停止(瞳孔反射の消失でみる)

2 脳死と植物状態

  1. 脳死

    脳波が平坦となり脳幹を含めた脳全体の機能が不可逆的に停止した状態。

    臓器に壊死が起こっていなければ、臓器を移植することが可能。

  2. 植物状態

    生存に必要な脳幹の機能は保たれているが、大脳皮質の機能が停止している状態。自発的な呼吸ができるので人工呼吸器は必要ない。

    随意運動ができないため食事や排泄の介助が必要である。

3 死後の変化

  1. 死冷:体温が下がり、外気温と等しくなる。
  2. 死後硬直:筋が短縮して硬くなる。硬直は1~2日後には緩解して元に戻る。
  3. 死斑:背部などにできる青紫色の斑点。血液が重力によって背部に沈下し、凝固することによって生じる。
  4. 自己融解・自己消化:体内の酵素の作用により、自らの組織が消化される。
  5. その他:角膜や口唇が乾燥したり、腸内細菌の作用により、腐敗してガスが発生する。