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第6編 炎症

第1章 炎症の一般

第1節 炎症の概念

炎症とは、有害刺激に対する局所組織の防御反応である。風邪を引くとのどが赤く腫れ上がり、痛みが起こる。これはのどに感染が起こったことを知らせ、治癒を促すための反応といえる。

しかし、激しい炎症や慢性の炎症は、激しい痛みを起こし、身体の機能を著しく低下させる。このような過剰な炎症は疾病として捉えることができる。

炎症を起こす疾患には、皮膚炎・腱鞘炎・肝炎と「炎」の付く疾患の他に、虫刺され・熱傷・捻挫・蓄膿・結核などもある。

第2節 炎症の原因

炎症の原因となるものを催炎体または起炎体という。生体にとって有害なものはすべて催炎体である。

第2章 炎症の過程

炎症は次の3つの過程をたどる。その過程でさまざまな病変を起こす。

  1. 組織の変質:有害刺激によって組織が障害される(変性・壊死)。
  2. 循環障害と滲出:病巣が腫れ上がり(充血・水腫)、白血球が障害組織に集まる(滲出)。
  3. 組織の増殖:肉芽組織が増殖し、障害組織を修復する。

第1節 組織の変質

催炎体の障害作用により、組織細胞が変性や壊死を起こすこと。炎症の初期にみられる。

第2節 循環障害と滲出

循環障害と滲出は、炎症性充血と滲出の2つの過程からなる。

この反応は、障害組織に血漿成分や白血球を集めるための反応である。炎症の病変の中で、最も重要である。

1 炎症性充血

皮膚に炎症が起こると赤く腫れ上がるが、これは充血によるものである。これを炎症性充血という。

1.炎症性充血の過程

炎症性充血は次の2つの過程からなる。

  1. 第1相:一過性の虚血状態。障害組織の周囲にある細動脈が収縮し、虚血が起こる。
  2. 第2相:強い充血状態。細動脈が拡張、細静脈が収縮し、障害局所の毛細血管に強い充血が起こる。
2.起炎因子(ケミカルメディエーター)

炎症性充血を起こす物質。

起炎因子には次の4つがある。

  1. ヒスタミン:血管拡張
  2. セロトニン:血管収縮
  3. ブラジキニン:血管拡張、透過性亢進
  4. プロスタグランジン:発痛物質

    ヒスタミン・セロトニンは肥満細胞から放出され、ブラジキニン・プロスタグランジンは障害された細胞から放出される。また、上記の起炎因子はすべて発痛物質でもある。

2 滲出

1.定義

滲出とは、炎症によって血漿成分が血管外に流出することをいう。

起炎因子の作用や炎症性充血により、毛細血管の透過性が亢進することで起こる。

☆漏出との違い:漏出のうち、炎症により血漿成分が出るものを滲出という。

血漿成分の滲出は、分子の小さいものから起こる。血漿蛋白ではアルブミン、グロブリン、フィブリノゲンの順に滲出する。

滲出により血管外に流出した物質を滲出物(液体であれば滲出液)という。血漿蛋白が組織液に混じると組織液の浸透圧が高まり、水腫が起こる(炎症性水腫)。

2.滲出液と漏出液の違い
  1. 漏出液

    原因:水腫など

    成分:水

  2. 滲出液

    原因:炎症

    成分:血漿成分

3.白血球の遊走

滲出により組織中に出た白血球は、障害組織に遊走し、異物を貪食・融解する。炎症局所に遊走した白血球を炎症細胞という。その主体は通常、好中球である。

4.滲出物と炎症細胞のはたらき

滲出した血漿成分と炎症細胞のはたらきは次のとおりである。

  1. 水:催炎体の濃度を薄め、処理しやすくする。
  2. 好中球:病原体を貪食する。炎症の初期にみられる。
  3. リンパ球:病原体を破壊する。慢性の炎症で現れる。
  4. 単球:組織中でマクロファージとなり、異物を貪食・融解する。
  5. 免疫グロブリン(抗体):病原体や毒素を中和・解毒する。
  6. 補体:免疫反応を強める作用を持つ蛋白質。抗体とは別の物質。
  7. フィブリノゲン:病原体を捕獲し、白血球の攻撃を容易にする。

第3節 組織の増殖

破壊された組織の破片や死滅した白血球など、異物となったものを処理し、破壊された部分を修復する過程である。組織の増殖の主体となるのは肉芽組織である。

第4節 炎症の経過

炎症は、急性期・亜急性期・亜慢性期・慢性期・治癒期の順に経過をたどる。しかし、炎症は病原体の攻撃と生体の防御との戦いであり、一定の経過をたどらないのが普通である。大まかに考えて、滲出は急性期、組織の増殖は慢性期と捉えてよい。

☆炎症の経過のまとめ

急性期:滲出

慢性期:組織の増殖

急性期で増殖する白血球:好中球

慢性期で増殖する白血球:リンパ球

第3章 炎症の分類

炎症は主体となっている過程(病変)により、次の4つに分類される。(1)変質性炎(2)滲出性炎(3)増殖性炎(4)特異性炎

第1節 変質性炎(実質性炎)

変性や壊死など、組織破壊が強く現れる炎症。心筋、肝臓、腎尿細管などの実質臓器にみられることが多いので、実質性炎ともいわれる。

例:劇症肝炎、ジフテリアによる心筋炎

第2節 滲出性炎

滲出反応が強く現れる炎症。滲出物の種類により5つに分類される。

1 漿液性炎

血清(血球と凝固因子を除いたもの)の滲出が起こる炎症。

例:一般的な炎症、カタル、コレラ

☆カタル:粘液と漿液が流れ出ること。粘膜面に漿液性炎が起こったもの。

2 線維素性炎

フィブリノゲンの滲出が起こる炎症。

例:「線維素」が付くもの、大葉性肺炎、ジフテリアの偽膜形成

3 化膿性炎

滲出物中に多量の好中球を含み、膿となる炎症。原因菌として、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎双球菌、淋菌、緑膿菌などの化膿菌がある。

例:膿瘍など、「膿」が付くもの

化膿性炎は以下の4つに分けられる。

  1. 膿瘍:膿に含まれる蛋白融解酵素により組織内に空洞ができ、そこに膿が溜まるもの。
  2. 蓄膿:副鼻腔・胸腔・心膜腔などの体腔内に膿が貯溜したもの。

    例:膿胸、子宮膿腫

  3. 蜂巣炎(蜂窩織炎):膿が組織間隙にびまん性に広がったもの。

    例:瘭疽、面疔、急性虫垂炎

  4. 膿性カタル(膿漏):粘液に膿が混じったもの。

    例:歯槽膿漏、膿性鼻カタル

4 出血性炎

赤血球の滲出が起こる炎症。

例:「出血性」が付くもの、劇症肝炎、インフルエンザ肺炎

5 腐敗性炎(壊疽性炎)

腐敗菌により腐敗(壊疽)がみられる炎症。

例:「壊疽」が付くもの。

第3節 増殖性炎

組織の増殖が特に強く現れる炎症。肉芽組織が増殖する。

例:肝硬変、珪肺症

第4節 特異性炎(肉芽腫性炎)

特異性肉芽腫を形成する炎症。肉芽腫性炎ともいう。

特異性肉芽腫とは、肉芽組織の増殖過程において、病原体や抗原抗体反応の影響により独特の性状を持った肉芽組織をいう。

肉芽腫性炎を起こす代表的な疾患には次のものがある。

1 結核症

結核菌の感染により起こる。結核症では、結核結節という肉芽腫がみられる。

一次結核症では初期感染巣がみられ、二次結核症では粟粒結核がみられる。

結核結節の構造は次の3つに分けられる。

  1. 中心部:乾酪変性(結核菌の凝固壊死層)

    ☆顕微鏡で見ると乾いたチーズのように見える。

  2. 中間層:マクロファージ(類上皮細胞やラングハンス巨細胞)
  3. 外層:リンパ球・形質細胞・線維芽細胞

2 梅毒

梅毒トレポネーマの感染によって起こる。梅毒は、ゴム腫という肉芽腫がみられる。

3 ハンセン病

癩菌の感染によって起こる。癩結節と呼ばれる肉芽腫を形成する。

4 サルコイドーシス

原因不明の疾患。結核結節に似た肉芽腫をつくる。乾酪変性はみられない。

5 その他

クローン病、膠原病(関節リウマチ・リウマチ熱)、腸チフス、真菌症などがある。

第4章 炎症の症状

第1節 炎症の局所症状

炎症の局所症状には次の5つがあり、炎症の5大徴候という。

  1. 発赤:炎症性充血により起こる。
  2. 腫脹:炎症性充血や滲出(炎症性水腫)により起こる。
  3. 発熱:炎症性充血により起こる。
  4. 疼痛:起炎因子や滲出物の圧迫により起こる。
  5. 機能障害:疼痛、組織の破壊、腫脹により起こる。

第2節 炎症の全身症状

  1. 発熱:病原体を除去するために、マクロファージが視床下部に作用して体温を上昇させる。
  2. 白血球の増加:病原体を除去するために起こる。
  3. リンパ節や脾臓の腫大:病原体を処理するために組織の増殖が起こる。
  4. 赤沈(赤血球沈降速度)の亢進
  5. CRP値(C反応性蛋白)の上昇