腫瘍とは、生体の細胞が変化し、自律的(無制限)に増殖する病変である。
☆自律的増殖:生体の制御を受けずに無制限に増殖すること。腫瘍細胞は遺伝子などの性質が変化しており、生体の制御を受けることなく無制限に増殖できる。
発育(増殖)が宿主(人体)に及ぼす影響により、良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられる。
腫瘍の発育により、生命に危険を及ぼさないもの。
風船が膨張するように発育する。周囲の正常組織を破壊することはない。ただし、大きくなりすぎると周囲の組織を圧迫する。
生命に危険を及ぼすもの。
腫瘍は周囲の組織を破壊しながら発育する。また、宿主から栄養を奪いながら発育するため、最後には宿主の生命活動に必要な栄養が不足し、死に至らしめる。
癌は悪性腫瘍に分類され、我が国における死因の3割以上を占めている(死因の第1位)。
腫瘍は一般に次のような形態的特徴を持つ。
☆ポリープ:キノコのかさの部分が球状になっているような形。良性腫瘍の場合が多い。
腫瘍は次の2つのもので構成される。
異型性とは、実質と正常な母組織との形態的な違い(の度合い)である。
腫瘍にみられる異型性は、以下のとおり。
異型性の大きさにより、成熟型・未成熟型に分けられる。
上皮組織(皮膚や粘膜)から発生した腫瘍を上皮性腫瘍という。上皮性腫瘍の構造は、間質の中に実質細胞の塊が点在しているようになっており、実質と間質が混じり合わない。
実質細胞の塊を顕微鏡で見ると蜂の巣状に見えるため、これを蜂巣構造という。
癌は上皮性の腫瘍であり、蜂巣構造を呈する。
連続性発育には、次の2とおりがある。
風船が膨らむように、周囲の組織を押しのけながら大きくなる。周囲の正常組織との境界が明瞭である。
良性腫瘍の特徴である。
木の根が地中に広がっていくように、腫瘍組織が正常組織を破壊しながら広がっていくもの。正常組織との境界は不明瞭である。悪性腫瘍の特徴である。
転移は悪性腫瘍の特徴である。悪性腫瘍は浸潤性に発育し、血管やリンパ管を破壊する。その後血液やリンパ液の流れに乗り、全身に広がり、発育を続ける。
転移には次のような種類がある。
リンパの流れによって腫瘍細胞が運ばれるもの。癌の転移で多い。
肺癌は肺門リンパ節に、乳癌は腋窩リンパ節に転移する。また、胃癌は左鎖骨上リンパ節に転移することが多い(ウィルヒョウの転移)。
血流によって腫瘍細胞が運ばれ、離れた場所に転移巣をつくるもの。肉腫の転移で多くみられる。
多くの腫瘍は静脈循環によって肺に転移巣をつくることが多い。また、腹部内臓の腫瘍は門脈を経て肝臓に転移することが多い。まれに、消化器の癌が卵巣に転移することがある(クルーケンベルグ腫瘍)。
体腔内の臓器の表面の腫瘍が崩れ、植物の種をまき散らすように対空内で広がるもの。この場合、癌性胸膜炎や癌性腹膜炎となる。
また、腹腔の播種ではダグラス窩(女性は子宮と直腸の間、男性は膀胱と直腸の間)に転移巣をつくることが多い。これをシュニッツラー転移という。
接触性転移(上唇癌が下唇に転移する)、移植性転移(手術の際に誤って他の部位に癌細胞がこぼれて転移する)、管腔性転移(肺癌が気道を、腎癌が尿管を伝わって転移する)がある。
再発とは、外科手術などによっていったん治癒した腫瘍が、5年以内に再び現れた場合をいう。
浸潤性に発育し、転移する悪性腫瘍は、再発しやすい(カビや雑草のように発育・転移するため)。
正常な細胞から悪性腫瘍に変化するまでの発育段階を、臨床上次のように分ける。
正常細胞から腫瘍細胞に変化する前段階の状態。
前癌状態の例として、胃粘膜の腸上皮化生・萎縮性胃炎(胃癌)、老人性過角化症や熱傷の瘢痕(皮膚癌)、B型・C型肝炎による肝硬変(肝癌)、子宮頸部粘膜異形性(子宮癌)などがある。
腫瘍化した病巣が、臨床的に発見されるまでの状態。
癌原発病巣の広がりが少なく、1つの組織内に留まっている状態。
胃癌の場合、胃粘膜内に留まっている段階である。
癌原発病巣が、発生局所組織を越えて周囲組織に浸潤している状態。
周囲のリンパ節や臓器への転移の可能性が高い。
腫瘍が全身に広がり、悪液質状態になっているもの。
潜在癌(生前に発見されなかった腫瘍が、死後の解剖により発見される)、不顕性癌(転移した腫瘍は見つかっているが、原発巣が分からない)がある。
TNMは、腫瘍の原発巣の大きさや転移の程度により、腫瘍の予後を判断するためのものである。
これらの要素を組合せてⅠ~Ⅳの4段階に分類する。Ⅰ・Ⅱは予後良、Ⅲ・Ⅳは予後不良である。
悪性腫瘍の場合、発見が遅れると治療の手段がない。したがって、早期診断が重要になってくる。
現在行われている診断法には、超音波・CTスキャン・MRIなどの画像診断、内視鏡診断、細胞診などがある。
また、最新の診断法としては、腫瘍細胞から分泌される微量物質(腫瘍マーカー)を検出する方法が開発され、応用されている。
主な腫瘍マーカーは次のとおり。
腫瘍の発育により、宿主(人体)に次のような影響を与える。
☆圧迫・閉塞は良性腫瘍でもみられる。腫瘍の発育自体は生命の危険はないが、発育する場所によっては危険なことがある。
☆ホルモン亢進症の多くは腫瘍が原因(バセドウ病を除く)。
宿主は免疫や内分泌のはたらきにより、腫瘍に対して以下の影響を与える。
免疫により腫瘍の発育を抑制している。例えば、NK細胞は腫瘍細胞を破壊する。
そのため免疫力が低下すると悪性腫瘍が発生しやすく、発育も速くなる。
乳癌・子宮体癌・前立腺癌は性ホルモンの影響を受けて発育が促進される。そのためホルモン依存性腫瘍と呼ばれる。また、性ホルモンのはたらきを抑制すると、腫瘍の発育が抑制される。この原理を用いた治療法をホルモン療法という。
腫瘍に及ぼす影響により、イニシェーター(起癌要因)とプロモーター(育癌要因)に分けられる。
正常な細胞を腫瘍細胞に変化させる。起癌因子。
腫瘍を発生させる化学物質を発癌物質または癌原性物質という。
腫瘍を作る原因となるウイルスを癌ウイルスという。
生活環境や職業が発癌と関係することがある。
腫瘍細胞の増殖を続けさせる。育癌因子。
喫煙は重要な育癌要因である。そのほか、食塩は胃癌、胆汁酸は大腸癌の発育を促進させる。
☆ほとんどの癌は男性に多い。
腫瘍は次の2つの要素により分類される。
上皮組織に発生する良性腫瘍。乳頭腫と腺腫に分けられる。
粘膜が乳頭のように突出したもの。口腔・咽頭・膀胱などにみられる。
分泌腺の組織に由来するもの。胃・大腸の粘膜に発生するもの(ポリープ)や甲状腺など、内外の分泌腺がある上皮組織にみられる。
このうち、分泌物が溜まって膨らんだものを嚢胞腺腫といい、卵巣・腎臓・甲状腺などにみられる。
上皮組織以外の組織から発生する良性腫瘍。
発生する組織により、線維腫、脂肪腫、軟骨腫及び骨腫、筋腫(子宮筋腫など)、血管腫及びリンパ管腫、黒色腫(色素性母斑=ほくろ)、神経組織の腫瘍(神経線維腫・神経鞘腫・褐色細胞腫・髄膜腫)がある。
上皮組織に発生する悪性腫瘍で、「癌」と呼ばれるものである。癌は発生頻度が高く、予後が悪い。発生する組織により、次の3つに分けられる。
扁平上皮に発生するもの。子宮頸癌も含まれる。
腺上皮から発生するもの。胃・大腸・膵臓・胆嚢・肺・甲状腺・前立腺・乳腺・子宮体部など、内外の分泌腺がある上皮組織にみられる。
異型の程度が著しく、悪性度が最も高い。肺の小細胞癌、甲状腺の巨細胞癌などがある。
上皮組織以外の組織から発生する悪性腫瘍で、「肉腫」と呼ばれる。発生頻度は低いが、好発年齢が癌腫より若く、発育速度が速く、遠隔部に転移することが多いなど、腫瘍の中で悪性度が最も高い。
腫瘍の実質が2種以上の細胞からなるもの。
これには、間葉性混合腫瘍、類臓器性混合腫瘍(腎臓のウィルムス腫瘍)、奇形腫がある。