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第7編 腫瘍

第1章 腫瘍の概要

第1節 腫瘍の定義

腫瘍とは、生体の細胞が変化し、自律的(無制限)に増殖する病変である。

☆自律的増殖:生体の制御を受けずに無制限に増殖すること。腫瘍細胞は遺伝子などの性質が変化しており、生体の制御を受けることなく無制限に増殖できる。

第2節 腫瘍の種類

発育(増殖)が宿主(人体)に及ぼす影響により、良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられる。

1 良性腫瘍

腫瘍の発育により、生命に危険を及ぼさないもの。

風船が膨張するように発育する。周囲の正常組織を破壊することはない。ただし、大きくなりすぎると周囲の組織を圧迫する。

2 悪性腫瘍

生命に危険を及ぼすもの。

腫瘍は周囲の組織を破壊しながら発育する。また、宿主から栄養を奪いながら発育するため、最後には宿主の生命活動に必要な栄養が不足し、死に至らしめる。

癌は悪性腫瘍に分類され、我が国における死因の3割以上を占めている(死因の第1位)。

第2章 腫瘍の構造

第1節 腫瘍の形態

腫瘍は一般に次のような形態的特徴を持つ。

  1. )形:実質臓器内に発生したものは、基本的に球状の結節である。臓器の表面に発生したものは、いぼ状・キノコ状・乳頭状・ポリープ状・噴火口状など様々である。<

    ☆ポリープ:キノコのかさの部分が球状になっているような形。良性腫瘍の場合が多い。

  2. )大きさ:ごく初期のものは顕微鏡でないと見えないが、発育・成長すると鶏卵大から人頭大に達するものもある。<
  3. )色:一般的には灰白色であるが、血管に富むもの(血管腫)は赤色、脂肪を多く含むもの(脂肪腫)は黄色、メラニン色素を多く含むものは黒色となる。<
  4. )硬さ:骨腫や軟骨腫は硬く、脂肪腫や粘液腫は軟らかい。また、実質細胞の多いものは軟らかく(髄様癌)、間質つまり結合組織の多いものは硬い(硬癌)。<

第2節 実質と間質

腫瘍は次の2つのもので構成される。

  1. )実質:腫瘍固有の細胞。腫瘍が発生した組織(母組織)の細胞に似ている。<
  2. )間質:毛細血管に富む結合組織。実質の間を満たし、栄養を与える。<

第3節 異型性

異型性とは、実質と正常な母組織との形態的な違い(の度合い)である。

腫瘍にみられる異型性は、以下のとおり。

  1. )大きさや形の異常:大きさが不揃い、細胞核/細胞質比が大きい。<
  2. )細胞核の異常:核の大小不同、DNA量の増加、染色体分布の偏在。<
  3. 染色体の異常:異倍体(3倍体・4倍体など染色体数が多い)が認められる。腫瘍特有の染色体(フィラデルフィア染色体など)が発生する。

異型性の大きさにより、成熟型・未成熟型に分けられる。

  1. 成熟型:異型性が小さい(正常細胞に近い)、良性腫瘍の特徴。
  2. 未成熟型:異型性が大きい(正常細胞との違いが大きい)、悪性腫瘍の特徴。

第4節 蜂巣構造

上皮組織(皮膚や粘膜)から発生した腫瘍を上皮性腫瘍という。上皮性腫瘍の構造は、間質の中に実質細胞の塊が点在しているようになっており、実質と間質が混じり合わない。

実質細胞の塊を顕微鏡で見ると蜂の巣状に見えるため、これを蜂巣構造という。

癌は上皮性の腫瘍であり、蜂巣構造を呈する。

第3章 腫瘍の発育と転移

第1節 発育の種類

  1. 連続性発育:腫瘍細胞が発生局所で発育し続けること。
  2. 非連続性発育(転移):腫瘍組織が原発巣から離れ、別の場所で発育すること。

第2節 連続性発育

連続性発育には、次の2とおりがある。

1 膨脹性発育(拡張性発育)

風船が膨らむように、周囲の組織を押しのけながら大きくなる。周囲の正常組織との境界が明瞭である。

良性腫瘍の特徴である。

2 浸潤性発育

木の根が地中に広がっていくように、腫瘍組織が正常組織を破壊しながら広がっていくもの。正常組織との境界は不明瞭である。悪性腫瘍の特徴である。

第3節 非連続性発育(転移)

転移は悪性腫瘍の特徴である。悪性腫瘍は浸潤性に発育し、血管やリンパ管を破壊する。その後血液やリンパ液の流れに乗り、全身に広がり、発育を続ける。

転移には次のような種類がある。

  1. リンパ行性転移

    リンパの流れによって腫瘍細胞が運ばれるもの。癌の転移で多い。

    肺癌は肺門リンパ節に、乳癌は腋窩リンパ節に転移する。また、胃癌は左鎖骨上リンパ節に転移することが多い(ウィルヒョウの転移)。

  2. 血行性転移

    血流によって腫瘍細胞が運ばれ、離れた場所に転移巣をつくるもの。肉腫の転移で多くみられる。

    多くの腫瘍は静脈循環によって肺に転移巣をつくることが多い。また、腹部内臓の腫瘍は門脈を経て肝臓に転移することが多い。まれに、消化器の癌が卵巣に転移することがある(クルーケンベルグ腫瘍)。

  3. 体腔内転移(播種)

    体腔内の臓器の表面の腫瘍が崩れ、植物の種をまき散らすように対空内で広がるもの。この場合、癌性胸膜炎や癌性腹膜炎となる。

    また、腹腔の播種ではダグラス窩(女性は子宮と直腸の間、男性は膀胱と直腸の間)に転移巣をつくることが多い。これをシュニッツラー転移という。

  4. その他

    接触性転移(上唇癌が下唇に転移する)、移植性転移(手術の際に誤って他の部位に癌細胞がこぼれて転移する)、管腔性転移(肺癌が気道を、腎癌が尿管を伝わって転移する)がある。

第4節 腫瘍の再発

再発とは、外科手術などによっていったん治癒した腫瘍が、5年以内に再び現れた場合をいう。

浸潤性に発育し、転移する悪性腫瘍は、再発しやすい(カビや雑草のように発育・転移するため)。

第4章 腫瘍の発育と診断

第1節 腫瘍の発育段階

正常な細胞から悪性腫瘍に変化するまでの発育段階を、臨床上次のように分ける。

  1. 前癌状態

    正常細胞から腫瘍細胞に変化する前段階の状態。

    前癌状態の例として、胃粘膜の腸上皮化生・萎縮性胃炎(胃癌)、老人性過角化症や熱傷の瘢痕(皮膚癌)、B型・C型肝炎による肝硬変(肝癌)、子宮頸部粘膜異形性(子宮癌)などがある。

  2. 潜伏癌

    腫瘍化した病巣が、臨床的に発見されるまでの状態。

  3. 早期癌

    癌原発病巣の広がりが少なく、1つの組織内に留まっている状態。

    胃癌の場合、胃粘膜内に留まっている段階である。

  4. 進行癌

    癌原発病巣が、発生局所組織を越えて周囲組織に浸潤している状態。

    周囲のリンパ節や臓器への転移の可能性が高い。

  5. 末期癌

    腫瘍が全身に広がり、悪液質状態になっているもの。

  6. その他

    潜在癌(生前に発見されなかった腫瘍が、死後の解剖により発見される)、不顕性癌(転移した腫瘍は見つかっているが、原発巣が分からない)がある。

第2節 TNM分類

TNMは、腫瘍の原発巣の大きさや転移の程度により、腫瘍の予後を判断するためのものである。

  1. T:原発巣の大きさと広がり
  2. N:付属リンパ節転移の有無と広がり(進行癌)
  3. M:遠隔転移の有無(末期癌)

    これらの要素を組合せてⅠ~Ⅳの4段階に分類する。Ⅰ・Ⅱは予後良、Ⅲ・Ⅳは予後不良である。

第3節 腫瘍の診断

悪性腫瘍の場合、発見が遅れると治療の手段がない。したがって、早期診断が重要になってくる。

現在行われている診断法には、超音波・CTスキャン・MRIなどの画像診断、内視鏡診断、細胞診などがある。

また、最新の診断法としては、腫瘍細胞から分泌される微量物質(腫瘍マーカー)を検出する方法が開発され、応用されている。

主な腫瘍マーカーは次のとおり。

  1. 肝癌:AFP(αフェトプロテイン)
  2. 大腸癌:CEA(胎児性抗原)
  3. 膵癌:CA19-9(膵癌細胞抗原)
  4. 前立腺癌:PSA
  5. 卵巣及び精巣腫瘍:HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)

第5章 腫瘍と宿主の相互関係

第1節 腫瘍が宿主に与える影響

腫瘍の発育により、宿主(人体)に次のような影響を与える。

1 局所的影響

  1. 圧迫:膨張性発育により周囲の臓器が圧迫される。脳腫瘍による脳皮質や視神経の圧迫などが起こる。
  2. 管腔の閉塞:消化管・気道・尿路・血管などが腫瘍により圧迫・閉塞される。

    ☆圧迫・閉塞は良性腫瘍でもみられる。腫瘍の発育自体は生命の危険はないが、発育する場所によっては危険なことがある。

  3. 出血:悪性腫瘍の浸潤性発育により血管が破壊される。
  4. 細菌感染:腫瘍組織の壊死巣や分泌物に細菌が感染し、肝膿瘍や肺炎を起こす。
  5. 骨転移:病的骨折、高カルシウム血症(骨質の破壊)、貧血(骨髓の破壊)が起こる。
  6. 脳転移:脳浮腫、出血などにより中枢神経障害を起こす。

2 全身的影響

  1. 悪液質:栄養失調により衰弱した状態。悪性腫瘍の末期になると現れる。腫瘍細胞に栄養を奪われたり、腫瘍から毒性物質が分泌されることが原因とされる。
  2. 免疫異常:腫瘍が拡大すると、栄養不足により免疫力が低下し、日和見感染をきたす。
  3. 発熱:腫瘍崩壊物質による体温調節中枢の刺激、感染症で起こる。
  4. 内分泌異常:内分泌腺から起こった腫瘍細胞の増殖により、ホルモンの過剰分泌を起こす。

    ☆ホルモン亢進症の多くは腫瘍が原因(バセドウ病を除く)。

  5. 異所性ホルモン産生腫瘍:内分泌腺でない腫瘍細胞からホルモンが分泌されるもの。

第2節 宿主が腫瘍に及ぼす影響

宿主は免疫や内分泌のはたらきにより、腫瘍に対して以下の影響を与える。

  1. 免疫力の影響

    免疫により腫瘍の発育を抑制している。例えば、NK細胞は腫瘍細胞を破壊する。

    そのため免疫力が低下すると悪性腫瘍が発生しやすく、発育も速くなる。

  2. ホルモンの影響

    乳癌・子宮体癌・前立腺癌は性ホルモンの影響を受けて発育が促進される。そのためホルモン依存性腫瘍と呼ばれる。また、性ホルモンのはたらきを抑制すると、腫瘍の発育が抑制される。この原理を用いた治療法をホルモン療法という。

第6章 腫瘍の原因

第1節 外因

腫瘍に及ぼす影響により、イニシェーター(起癌要因)とプロモーター(育癌要因)に分けられる。

1 イニシエーター

正常な細胞を腫瘍細胞に変化させる。起癌因子。

1.物理的因子
  1. 放射線:白血病や甲状腺癌(原爆被爆者)、骨肉腫(ラジウム照射)、皮膚癌(レントゲン技師)。
  2. 紫外線:皮膚癌(メラニン色素の少ない白人に特に著明)。
  3. 機械的刺激:舌癌(う歯の角に舌が繰返し当たって起こる)、口唇癌(パイプ使用者)。
  4. 熱:皮膚癌(熱傷の瘢痕)。
2.化学的因子

腫瘍を発生させる化学物質を発癌物質または癌原性物質という。

  1. ベンツピレン:皮膚癌
  2. アニリン誘導体:膀胱癌
  3. ニトロ化合物:胃癌
  4. アスベスト:中皮腫、肺癌
  5. ベンゼン:白血病
  6. PCB:肝癌
  7. ヒ素:皮膚癌
  8. その他:炭化水素・アフラトキシン・クロム・ニッケルなど。
3.生物学的因子

腫瘍を作る原因となるウイルスを癌ウイルスという。

  1. EBウイルス:バーキットリンパ腫、伝染性単核球症、鼻咽頭癌
  2. 乳頭腫ウイルス(パピローマ):子宮頸癌、尋常性乳頭腫
  3. B型・C型肝炎ウイルス:肝癌
  4. C型オンコウイルス:成人T細胞白血病
4.環境因子

生活環境や職業が発癌と関係することがある。

  1. 食生活:胃癌(塩分の過剰摂取)、大腸癌(動物性脂肪の過剰摂取)。
  2. 嗜好品:肺癌・喉頭癌(煙草)、食道癌(強い酒や熱い食物)。
  3. 大気汚染:肺癌

2 プロモーター

腫瘍細胞の増殖を続けさせる。育癌因子。

喫煙は重要な育癌要因である。そのほか、食塩は胃癌、胆汁酸は大腸癌の発育を促進させる。

第2節 内因

1 先天性要因

1.素因
  1. 臓器素因:胃や大腸は発症しやすいが、小腸癌は発症しにくい。
  2. 年齢素因:多くの腫瘍は高齢者に多いが、造血器や神経組織の腫瘍は小児にも多い。また、癌は高齢者に多い。
  3. 性素因:生殖器以外の腫瘍では、甲状腺癌・胆腫瘍は女性に多い。

    ☆ほとんどの癌は男性に多い。

  4. 人種素因:我が国には胃癌が多く、欧米では乳癌が多い。
2.遺伝・染色体異常
  1. 遺伝が関係するもの:網膜芽腫、家族性大腸腺腫症、神経線維腫症、腎臓のウィルムス腫瘍など。
  2. 染色体異常:ダウン症の患者には白血病が多い。

2 後天性要因

  1. 内分泌異常:男性ホルモンの分泌は前立腺癌、女性ホルモンの分泌は子宮体癌や乳癌の発育を促進させる。
  2. 免疫力の低下:免疫力が衰えると腫瘍が発生しやすい。

第7章 腫瘍の分類

第1節 分類の概要

腫瘍は次の2つの要素により分類される。

1 異型性の度合い

  1. 成熟型腫瘍:良性腫瘍のこと(異型性が小さい、正常に近い腫瘍)。
  2. 未成熟型腫瘍:悪性腫瘍のこと(異型性が大きい未熟な腫瘍)。

      2 発生する母組織の違い

      1. 上皮性腫瘍:上皮組織に発生する腫瘍
      2. 非上皮性腫瘍:上皮組織以外の組織(結合・筋・神経組織)に発生する腫瘍。一般間葉組織腫瘍(結合組織・筋など)、造血リンパ組織腫瘍、神経性腫瘍に分けられる。

        腫瘍は上記の2つの要素を組み合わせて、次の4つに分類される。

        1. 成熟型上皮性腫瘍
        2. 成熟型非上皮性腫瘍
        3. 未成熟型上皮性腫瘍(癌)
        4. 未成熟型非上皮性腫瘍(肉腫)

        第2節 良性腫瘍

        1 成熟型上皮性腫瘍

        上皮組織に発生する良性腫瘍。乳頭腫と腺腫に分けられる。

        1. 乳頭腫

          粘膜が乳頭のように突出したもの。口腔・咽頭・膀胱などにみられる。

        2. 腺腫

          分泌腺の組織に由来するもの。胃・大腸の粘膜に発生するもの(ポリープ)や甲状腺など、内外の分泌腺がある上皮組織にみられる。

          このうち、分泌物が溜まって膨らんだものを嚢胞腺腫といい、卵巣・腎臓・甲状腺などにみられる。

        2 成熟型非上皮性腫瘍

        上皮組織以外の組織から発生する良性腫瘍。

        発生する組織により、線維腫、脂肪腫、軟骨腫及び骨腫、筋腫(子宮筋腫など)、血管腫及びリンパ管腫、黒色腫(色素性母斑=ほくろ)、神経組織の腫瘍(神経線維腫・神経鞘腫・褐色細胞腫・髄膜腫)がある。

        第3節 悪性腫瘍

        1 未成熟型上皮性腫瘍(癌)

        上皮組織に発生する悪性腫瘍で、「癌」と呼ばれるものである。癌は発生頻度が高く、予後が悪い。発生する組織により、次の3つに分けられる。

        1. 扁平上皮癌

          扁平上皮に発生するもの。子宮頸癌も含まれる。

        2. 腺癌

          腺上皮から発生するもの。胃・大腸・膵臓・胆嚢・肺・甲状腺・前立腺・乳腺・子宮体部など、内外の分泌腺がある上皮組織にみられる。

        3. 未分化癌

          異型の程度が著しく、悪性度が最も高い。肺の小細胞癌、甲状腺の巨細胞癌などがある。

        2 未成熟型非上皮性腫瘍(肉腫)

        上皮組織以外の組織から発生する悪性腫瘍で、「肉腫」と呼ばれる。発生頻度は低いが、好発年齢が癌腫より若く、発育速度が速く、遠隔部に転移することが多いなど、腫瘍の中で悪性度が最も高い。

        1. 一般肉腫:線維肉腫・粘液肉腫・脂肪肉腫・骨肉腫・軟骨肉腫・黒色肉腫(メラノーマ)・筋肉腫などがある。
        2. 造血組織の肉腫:リンパ組織に発生する悪性リンパ腫(ホジキン病・非ホジキン病)、白血球が悪性化した白血病(骨髄性・リンパ性)、多発性骨髄腫(成人の脊椎・頭蓋骨・肋骨・骨盤などに発生)などがある。
        3. 神経組織の肉腫:シュワン鞘から発生する悪性末梢神経鞘腫、小児の副腎髄質や交感神経節から発生する神経芽腫、乳幼児の網膜に発生する網膜芽腫、成人の大脳に発生する神経膠芽腫などがある。

        第4節 混合腫瘍

        腫瘍の実質が2種以上の細胞からなるもの。

        これには、間葉性混合腫瘍、類臓器性混合腫瘍(腎臓のウィルムス腫瘍)、奇形腫がある。