FontSize:

第1章 衛生学・公衆衛生学の意義

1 衛生学・公衆衛生学とは

衛生学・公衆衛生学は、 人間の生存に影響を及ぼす様々な関連要因を踏まえ、 健康の保持・増進を目的とする学問である。

2 衛生学・公衆衛生学の歴史

1)衛生学・公衆衛生学の成立とその源流

(1)衛生・公衆衛生に関連するおもな歴史的事項

  1. ヒポクラテス

    紀元前4世紀頃、古代ギリシャ。医学の父・医聖と呼ばれたヒポクラテスが、四体液説(血液・黄胆汁・粘液・黒胆汁)を説いた。

  2. ガレヌス

    紀元後2世紀頃、ローマ時代。ガレヌスが衛生という概念に対して初めてハイジーンという語を用いた。

  3. レーウェンフック

    1673年、微生物学の父、レーウェンフックが顕微鏡を作り、微生物を初めて観察した。

  4. ジェンナー

    1796年、ジェンナーが天然痘予防のための種痘法(牛痘接種)を創始した。

  5. パスツール

    1866年、ベルナールとパスツールが低温殺菌法を考案、また、パスツールは狂犬病ワクチンを発明した。

  6. コッホ

    1882年、コッホが結核菌を発見した。

  7. イェルサン・北里柴三郎

    1894年、パスツール研究所の細菌学者であるイェルサンがペスト菌を発見、日本の細菌学者、北里柴三郎も、ほぼ同時期に発見した。

  8. エールリッヒ・秦佐八郎

    1910年、エールリッヒと秦佐八郎が梅毒治療薬のサルバルサンを合成、ペニシリンが使用されるまでの間、特効薬として使用された。

  9. フレミング

1929年、フレミングが青かびから世界初の抗生物質であるペニシリンを抽出した。

(2)衛生・公衆衛生に関連する国際社会の近年の動向

  1. 国際連合

    1945年、国際連合が設立された。

  2. WHO憲章

    1946年、WHO憲章が採択された。

  3. 世界人権宣言

    1948年、国連総会で世界人権宣言採択。WHOが正式に発足、WHO憲章が発効した。

  4. ヘルシンキ宣言

    1964年、第18回世界医師会総会でヘルシンキ宣言が採択され、インフォームド・コンセント(医療情報に関する説明と同意)に関する詳細が初めて記された。

  5. ストックホルム会議

    1972年、国連人間環境会議(ストックホルム会議)が開催された。

  6. プライマリ・ヘルス・ケア

    1978年、アルマ・アタ宣言の中でプライマリ・ヘルス・ケアが提言された。

  7. エイズ

    1981年、エイズが初めて報告された。

  8. オタワ憲章

    1986年、オタワで開催された「ヘルスプロモーションに関する第1回国際会議」でオタワ憲章(健康増進の考え方と活動方針を提示)が採択された。

  9. 環境と開発に関する国際会議

    1992年、リオデジャネイロで環境と開発に関する国際会議(地球サミット)が開催された。

  10. 国際人口開発会議

    1994年、エジプトのカイロで国際人口開発会議が開催された。

  11. 京都議定書

    1997年、地球温暖化防止に関する京都議定書が採択された。2015年には、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択された。

2)日本の衛生学・公衆衛生学の歴史

(1)1897年(明治40年)

伝染病予防法が制定された。

(2)1978年(昭和53年)

第一次国民健康づくり対策が開始された。

(3)1988年(昭和63年)

第二次国民健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン)が開始された。

(4)1989年(平成元年)

後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(エイズ予防法)が施行された。

(5)1999年(平成11年)

感染症法が施行された。

(6)2000年(平成12年)

健康日本21(生涯を通じる健康づくりの推進を基本的考え方とし、生活習慣の課題について、栄養・食生活、身体活動と運動、休養・こころの健康づくり、煙草、アルコール、歯の健康、糖尿病、循環器病、癌の9分野に関する基本方針等を掲げている)が開始された。

(7)2003年(平成15年)

健康増進法(国民・健康栄養調査、保健指導、受動喫煙の防止など)が施行された。

3 衛生学・公衆衛生学の活動と意義

1)公衆衛生の意義(WHOによる)

「公衆衛生は、疾病予防、生命延長、および精神的・肉体的な健康と能力の保持増進の科学・技術であって、地域社会の組織的な努力によって、環境衛生、伝染病予防、個人衛生における個人の衛生教育、疾病の早期診断と予防的治療のための医療と看護の組織化、および人々の健康保持に必要な生活水準を保障する社会機構の開発を図るものであり、これらの諸活動の組織化によって、すべての人々が生来の権利とする健康と長寿を実現させることができる」

2)プライマリ・ヘルス・ケア

1978年、WHOとユニセフの共催により旧ソ連のアルマ・アタ市で 開催された国際会議で、アルマ・アタ宣言が採択された。 この宣言に示された健康問題への取り組みの 基本方針がプライマリ・ヘルス・ケアである。

PHCは、地域社会に根ざした方法と資源で住民自 らが参加した保健医療システムをつくることを目指しており、 専門病院をつくったり高度医療を提供したりすることではなく、
身近で包括的・継続的な保健サービスが得られるようにするために次の8つの活動を行う。
  1. 健康教育(ヘルス・プロモーション)
  2. 食料確保と適切な栄養・安全な飲み水
  3. 基本的な環境衛生
  4. 母子保健(家族計画を含む)
  5. 主要な感染症への予防接種
  6. 地方風土病への対策
  7. 簡単な病気や怪我の治療
  8. 必須医薬品の供給