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第5章 産業保健

1 産業保健の意義

人々が働く環境を適切なものにし、労働災害や職業病を防ぎ、健康に生きがいをもって働けるようにする学術や活動が産業保健である。

2 労働衛生行政

1)労働安全衛生法

この法律は、労働災害の防止のための危害防止基準の確立・責任体制の明確化・自主的活動の促進の措置を講ずる等、その防止に関する総合的・計画的な対策を推進することにより、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進するために制定された。

  1. 事業者の責務

    事業者は、この法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じ、職場における労働者の安全と健康を確保しなければならない。

  2. 安全衛生管理体制
    1. 総括安全衛生管理者

      事業者は、政令で定める業種・規模の事業場ごとに、総括安全衛生管理者を選任する。

    2. 安全管理者

      安全管理者は、作業場所・作業方法に危険がある場合に応急措置や適当な防止の措置を行う者で、一定の業種において常時50人以上の労働者を使用する事業場の事業者は安全管理者を選任すると労働安全衛生法で定められている。

    3. 衛生管理者

      衛生管理者は労働安全衛生法で定められている国家資格で、一定の業種において常時50人以上の労働者を使用する事業場の事業者は、衛生管理者を選任する。

    4. 安全衛生推進者・衛生推進者

      常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場ごとに選任される。安全管理者を選任すべき業種では安全衛生推進者、衛生管理者のみを選任すればよい業種には衛生推進者が選任される。

    5. 作業主任者

      事業者が、作業の種類により有資格者の中から選任する。

    6. 産業医

      業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任される。労働者の健康管理等を職務とする。

    7. 安全委員会

      一定の業種において常時50人又は100人以上の労働者を使用する事業場ごとに設置される。労働者の危険防止に関する事項等を調査・審議する。

    8. 衛生委員会

      業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに設置される。労働者の健康障害に関する事項等を調査・審議する。

  3. 労働安全衛生法による健康診断
    ア 一般健康診断

    雇用時・定期健診・特定業務従事者(深夜業務・高温作業など)・海外派遣労働者(6か月以上の派遣)・給食従業員検便

    イ 特殊健康診断

    粉じん作業、高圧室内業務と潜水業務、放射線業務、特定化学物質の製造・取扱業務、鉛業務、四アルキル鉛等業務、有機溶剤業務、石綿等業務

2)労働者災害補償保険法

この法律は、労働者災害補償保険により、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害・死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするために必要な保険給付をすると同時に、社会復帰の促進・当該労働者及びその遺族の援護・適正な労働条件の確保等を図り、労働者の福祉の増進に寄与することを目的として制定された。

3)所管省庁

上記の法律に基づく労災防止や健康管理のシステムを所管するのは厚生労働省であり、地方の都道府県・東京都の特別区・政令市には国の出先機関として労働局があり、さらにその下に労働基準監督署が設置されている。

3 労働環境と健康

1)労働環境

労働環境は物理的環境要因・物的環境要因・化学的環境要因・社会的環境要因に分類される。

労働災害は、主として物的環境要因が関与する。

また、精神の健康・生きがい・働きがいには社会的環境要因が、職業病や職場の快適さには物理的・化学的環境要因が、主として関与している。

(1)環境測定

物理的・化学的環境を改善・維持するためには環境測定が必要で、目安になる値は許容濃度とか許容閾値として示されている。

例えば、一酸化炭素は50ppmである。

(2)事務所衛生基準

オフィスの事務所では、換気不足や喫煙により不快感を感じることもある。

そこで、厚生労働省では、事務所衛生基準をつくり、事務所環境が基準(気積・窓など開口部の面積・一酸化炭素・二酸化炭素・室温・湿度・気流・浮遊粉塵・照度・トイレ設備など)に適合するよう指導している。

2)作業条件と時間

作業条件には、作業の種類・作業の強さ・作業時間・労働(作業)環境などがある。

肉体作業では、消費される酸素量を測定することにより、強度を測定することができる。

精神・神経・感覚作業では強度の測定は困難であるが、疲労感の出現によって休息を図り、疲労を回復させることは可能である。

また、VDT作業では一連続作業時間を1時間以内とするよう指導するなど、作業や作業環境を管理することにより、労働者の健康管理を図っている。

4 労働災害とその対策

労働災害の多発する業種は港湾運送業・林業・建設業・一般貨物自動車運送業などで、企業の規模別では大企業より中小零細な企業に多発している。

5 業務上疾病とその対策

勤労者の疾病は、業務上疾病(職業病)とその他の一般疾病とに分けられる。

一般疾病に対しては年1回定期健康診断が事業主の責任で実施され、職業病対策のためには特殊健康診断が実施される。

厚生労働省は職業病のうち認定された事例を業務上疾病として集計している。

なお、業務上疾病の最新発生状況は、負傷に起因する疾病(災害性腰痛・腰痛以外)が最も多く、物理的因子による疾病・作業態様による疾病・化学物質による疾病・じん肺及び合併症・病原体による疾病が続いている。

1)じん肺・一酸化炭素中毒・酸素欠乏症・有機溶剤中毒・金属中毒

(1)じん肺

粉じんを長期間吸入して起こる肺の疾病の総称をじん肺と呼ぶ。

岩石など遊離珪酸の多い粉じんによる珪肺、石綿(アスベスト)による石綿肺などがある。

炭鉱労働者・石切業・アスベストを用いる建築物の解体従事者などにみられる。

アスベストは悪性中皮腫や肺癌の原因にもなる。

(2)一酸化炭素中毒

一酸化炭素中毒は、エンジンの排気ガス・練炭の燃焼・煙草の煙など、物が不完全燃焼するところでは必ず発生する。

血色素のヘモグロビンと結合するために酸素の運搬を妨げるので、内窒息が発生し、頭痛・吐き気・意識消失がみられ、死亡することもある。

(3)酸素欠乏症(酸欠症)

約21%ある空気中の酸素が何らかの原因で少なくなると発生することがある。

(4)有機溶剤中毒

有機溶剤中毒は、接着剤や塗料のシンナー・トルエン・キシレン・アセトンなどを吸入して起きる。

頭痛・めまい・ふらつきをきたす。

(5)金属中毒

鉛・カドミウム・水銀・クロムなどの金属ヒューム・粉じん・蒸気などを吸入して起きる。

(6)その他

フッ素樹脂・塩化ビニル樹脂・アクリル樹脂などの合成樹脂の化学物質(熱分解生成物)にさらされる業務では、眼粘膜・気道粘膜の炎症などの呼吸器疾患が生じる。

2)熱中症・減圧症・騒音性難聴・放射線障害

(1)熱中症

水分と電解質が汗で失われたり、熱がこもって脳の体温調節機能が働かなくなって起きる。

(2)減圧症

高圧下での潜水や潜函作業から急に減圧されると、血液中に窒素の気泡が生じて細い血管を塞ぎ発生する。

潜水夫病・潜函病ケイソン病と呼ばれる。

(3)騒音性難聴

85dB以上の大きな騒音に数年間暴露されると発生する。

(4)放射線障害

放射線被曝、放射性同位元素の吸入などで発生し、白内障や白血球の減少などが起きる。

(5)高山病

高山では空気が地上と比べて薄く、2400m程度以上の高山に登り酸欠状態に陥った場合、頭痛・吐き気・眠気などの症状が出現する。

3)腰痛・振動・VDT作業

(1)腰痛

腰痛のある人は日本の成人の半数を超えるが、そのうち職業性のものは極めて多い。

(2)振動

林業従事者は、チェーンソーを使うことにより手が振動し、白蝋病(局所振動障害・レイノー現象)になることがある。

(3)VDT作業

VDT作業は、パソコンなどのディスプレイ・キーボード・書類の3点セットを見ながら仕事をすることにより、頭痛・肩こり・頸腕症候群・眼精疲労・ドライアイなどが生じる。

4)過重労働・ストレス・メンタルヘルス

1か月に45時間(1日約2時間)以上の時間外労働は家庭・地域生活などを圧迫し、脳卒中・心臓発作・うつ病・自殺に追い込まれることがある。

5)対策

業務上疾病・労働災害を予防するためには作業環境管理・作業管理・健康管理の3管理を適切に実施することが大切である。これは労働衛生管理の基本となるもので、これに総括管理と労働衛生教育を加えて5管理とすることもある。

(1)作業環境管理

作業環境中の有害因子の状態を把握して、できる限り良好な状態で管理していくことである。

作業の遠隔化・作業場の換気・環境モニタリング

(2)作業管理

環境を汚染させないような作業方法、有害要因の暴露や作業負荷を軽減するような作業方法を定め、それが適切に実施させるように管理することである。

施術所での白衣着用・労働時間の短縮

(3)健康管理

労働者の健康の状態を健康診断により直接チェックし、健康の異常の早期発見、進行や増悪の防止、健康な状態に回復するための医学的及び労務管理的な措置をすること。