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第6章 精神保健

1 精神保健の意義

精神保健は、精神障害(心の病)を防ぎ、精神的健康(心の健康)を保持・増進するための様々な知識・技術・活動である。

2 精神の健康

1)精神の健康とは

精神的健康の特徴として次の4点が挙げられる。

  1. 精神の働きに、調和と一貫性があること

    例えば、カッとなって乱暴したりしないとか、気分が変わりやすく他人に言動を左右されることがないなどである。

  2. 自分をありのままに理解できること

    例えば、自分を能力以上に見せびらかせたり、逆に自信がなく内に閉じこもってしまうことがないなど、自分を客観的にながめ、そのうえで現状に即した具体的言動ができることである。

  3. 社会性があること

    例えば、利己的でなく、他の人と協力してやっていけることなどである。

  4. 倫理性があること

    例えば、正しいことを正しいとして、悪いことを悪いとして、適切に意志と信念を周囲に対して展開できることである。

    2)精神保健(活動)

    精神医療を支える人々は、一般医・精神科医・心理学専門家・保健師・看護師・精神保健福祉士(国家資格)・ケースワーカー(社会福祉士として勤務する公務員)・ソーシャルワーカー(国家資格としての社会福祉士を有する人)など多様である。

    3 精神障害の現状と分類

    1)精神障害の現状

    平成29年の傷病別の受療率を調べると

    2)精神障害の分類

    1. 原因による分類
      1. 内因性

        外因や心因がなく発症する精神障害。統合失調症・気分障害(躁うつ病)

      2. 外因性

        特定の外的な要因によって中枢神経系に器質的な障害をきたし、精神障害に至ったもの。認知症・高次脳機能障害・アルコールによる精神障害・大麻や覚醒剤による精神障害

      3. 心因性

        病気・転勤・試験の落第など、様々な心理・社会的刺激が原因で生じた精神障害。なお、神経症・心身症・自律神経失調症は、精神障害ではない。

    2. DSM分類

      DSMとは、米国精神医学界の「精神障害の診断と統計の手引き」の略である。現在はこの診断基準の第4版が用いられており、DSM-IVと呼ばれている。

    3. ICD分類

      第10回国際疾病分類のことで、ICD-10と呼ばれている。

    3)おもな精神科疾患

    1. 統合失調症(2002年に改称)

      原因は諸説あるが、未だ明確ではない。統合失調症は思考・感情及び意志の障害を示し、幻覚や妄想などの症状が示される。

    2. 気分障害(躁うつ病)

      うつと躁を繰り返す双極性障害とうつ病性障害(単極性障害)に大別される。女性の方が発症率が高い。

    3. てんかん

      突然、意識を失って、手足を痙攣させるなどの症状。多くの患者は薬物療法で発作が抑えられている。てんかんは現在では精神障害に含めない。

    4. 知的障害(精神遅滞

      生まれながらに著しく知能が劣っているものをいう。

    5. 適応障害

      重大な生活の変化・生活上のストレスに対して個人が順応していく時期に発生する障害で、その人の社会的機能や行為に支障をきたす。症状は主観的な苦悩と情緒障害で、抑うつ気分・不安・心配・現状の中でやっていけないという感じ・日々の仕事が障害されるなどである。

    6. 認知症(2005年に改称)

      一度獲得された知能が脳の器質的障害により持続的に低下した状態。血管性認知症・変性性認知症(アルツハイマー病・ピック病など)があり、認知症では夜間せん妄を生じやすい。

    7. アルコール依存

      急性中毒は酒に酔った状態である。大量・長期に飲み続けるとアルコール依存になる。

    8. 薬物乱用及び薬物依存

      健康に害を及ぼすほど精神作用のある薬物(大麻・覚醒剤・シンナー・LSDなど)を、本来の目的や用法から逸脱して不適切に反復使用することを薬物乱用といい、その効果を得るために有害であることを知っていても身体的・精神的にその薬物の服用をやめることができない状態を薬物依存という。

    9. 神経症と心身症

      神経症(ノイローゼ)とは、不安などの不適応行動を特徴とし、 入院するほど重篤ではない場合が多い状態である。 パニック障害(不安神経症)、転換性障害・解離性障害(ヒステリー)、離人性障害・解離性同一性障害(離人神経症)、 うつ病・気分変調性障害(抑うつ神経症)、解離性障害(ヒステリー)、解離性同一性障害(離人神経症)、 心気症などがある。

      また、身体疾患の中で、その発症や経過に心理的又は社会的な因子が密接に関与し、器質的・機能的障害が認められる病態を心身症という。摂食障害も心身症の一種である。

    4)精神保健教育と患者の転帰

    1. 精神保健教育

      精神障害者の発生防止や社会復帰の場面で、家族・学校・職場の仲間の果たす役割は非常に大きい。しかし、精神病や精神遅滞に対する人々の無知・無理解・偏見は昔から根強く、その発生防止と社会復帰の妨げとなっている場合は少なからずある。また、遺伝的素因を重視するあまり、患者の家族がこうむる有形無形の圧迫や被害も決して無視できない状況にある。この意味において、精神保健教育は、非常に重要である。

    2. 精神病患者の転帰

      精神病は完全に治る例もあるが、多くの場合、病気を抱えたまま、本人の生活と病状を折り合わせることが中心となる。精神科医と関連スタッフが本人・家族・職場の仲間と連絡をとり、適切な処置を続けていけば、長い期間ほぼ自立した社会生活を送ることが可能である。家族の手にあまる場合は、専門家・専門施設のサービスを受けることを検討したい。

    3. 精神遅滞の転帰

      精神遅滞は知能の著しい改善を望むことはできないので、施設などで適切な職業訓練や社会生活訓練を受け、できるだけ自立した生活を送ることができるようにする。

    4. 神経症患者の転帰

      神経症は、欲求の充足が妨げられ、葛藤と精神の緊張が続き、言動に異常が生じてくる。愛されたい欲求・社会的に承認されたい欲求・自己尊厳を保ちたい欲求などが満たされない場合、抑圧・攻撃・退行・置き換え・昇華・投射・合理化などによって自己を防衛しようとする。多くの場合、取りあえずそれでおさまる。しかし、判断力や思考力がうまく働かず、問題行動が出現することもある。その場合、経験豊かな人の助力を得ることや、必要に応じて宗教の力を借りることも検討したい。

    5)精神保健福祉法

    日本における精神病者の保護に関する最初の法律は1900年の「精神病者監護法」で、次に「精神病院法」が制定された。

    いずれも、自宅の座敷牢や土蔵に本人を閉じ込めておくこと(私宅監置)を合法化したものであった。

    その後、「精神衛生法」が制定され、従来の私宅監置制度は原則として廃止された。

    また、都道府県ごとに精神保健福祉活動の中心機関としての精神保健福祉センターが設けられ、保健所が地域精神保健の第一線の機関となった。

    さらに、精神衛生法は改正され、「精神保健法」となり、1995年に「精神保健および精神障害者福祉に関する法律」となった。

    精神保健福祉法の主な内容は次のとおりである。

    1. 都道府県は、精神病院を設置する。国はその病院に建設費を補助する。
    2. 都道府県の精神保健福祉センターは、精神衛生に関する知識の普及、技術指導、調査研究、高度な相談と指導を行う。
    3. 厚生労働大臣は、精神科医を精神保健指定医として指定し、精神障害の診断・保護にあたらせることができる。
    4. 都道府県知事は、届け出のあった者が入院させなければ自傷他害のおそれのある場合、精神保健指定医の診断により、入院措置をとることができる。
    5. 措置入院の費用は都道府県の公費で負担する。
    6. 保健所長は、入院していない精神障害者で必要と認める者に対して、訪問指導あるいは相談を、保健婦あるいは適当な医師をして行わせねばならない。
    7. 精神障害者保健福祉手帳をもたせる。

    6)精神障害者に対する医療および保護

    1. 入院医療
      1. 任意入院:本人の同意に基づく入院
      2. 医療保護入院:本人の同意は得られなくても家族などの同意が得られた場合の入院
      3. 措置入院:自傷他害を防ぐために都道府県知事が行う入院
      4. 応急入院:直ちに入院させなければ、その者の精神障害の医療及び保護を図る上で著しく支障があるのにもかかわらず、通常の任意入院・医療保護入院・措置入院を行うことができない場合、応急入院指定病院であれば、精神保健指定医の診察を経て72時間まで、本人の同意がなくても入院させることができる制度
    2. 通院医療

      通院医療では、その経費の約1/2は公費負担が行われる。

    3. デイ・ケア治療

      精神科のデイ・ケアは、通院患者に対して、投薬・検査などでなく、集団精神療法・レクリェーション活動・創作活動・日常生活指導・社会生活指導・作業指導・療養指導などを行う。

    4. 精神障害者の保護

      精神障害者の保護は、医療施設以外では家庭・学校・職場・中間施設などで行われる。

    5. アルコール依存対策

      成人男性の90%、成人女性の45%が飲酒人口と推定される。