古来、病気は、悪魔・神・精霊・たたりなどの仕業で引き起こされるとする考え方が一般的だった。
しかし、16世紀には、イタリアの学者により梅毒が接触によって伝染することが述べられ、病気の病原体説が体系的に示された。
その後、17世紀にはレーウェンフックが高倍率の顕微鏡を作製、19世紀末頃には近代的な細菌学が花開いた。
現代の日本では、インフルエンザ・気管支炎・肺炎・肝炎・食中毒・結核・性病・エイズなどがおもな感染症である。
感染症は、赤痢・マラリア・インフルエンザなどのように汚染した水や昆虫などを媒介したり直接ヒトからヒトへ伝染する伝染性感染症と、膀胱炎・敗血症・破傷風などのようにヒトからヒトへと伝染することのない非伝染性感染症に大別される。
病原微生物は、大別すると、真菌・原虫・スピロヘータ・細菌・リケッチア・クラミジア・ウイルスに分類される。
上記の微生物の中では真菌が最も大きく、原虫とスピロヘータが続く。
さらに、細菌・リケッチア・クラミジアと続き、ウイルスが最も小さい。
真菌はカビと同じもので、構造は菌糸と胞子からなる。白癬・カンジダ・クリプトコッカス
原虫は単細胞下等動物で偽足を出し活動する。トリコモナス膣炎・マラリア・トキソプラズマ
スピロヘータは細長いらせん状の微生物で、鞭毛はもたない。黄疸出血性レプトスピラ(ワイル病)・梅毒トレポネーマ
細菌は分裂によって増殖し、ハンス・グラムによって発明されたグラム染色で紫色に染まる陽性菌と紫色に染まらず赤く見える陰性菌、形状が球状の球菌と桿状の桿菌に分類される。
ブドウ球菌・連鎖球菌・肺炎球菌
淋病・髄膜炎
ジフテリア・炭そ・ボツリヌス菌・結核・ハンセン病
赤痢・腸チフス・パラチフス・サルモネラ・大腸菌・コレラ・百日咳・破傷風
リケッチアは細菌とウイルスの中間の性状で、光学顕微鏡でみえる最小の微生物である。発疹チフス・発疹熱・ツツガムシ病
クラミジアは以前ウイルスと考えられていた。動物の細胞内においてのみ増殖する。オウム病・鼡径リンパ肉芽腫症・トラコーマ
ウイルスは上記病原微生物の中で最も小さく、複製により増殖する。また、遺伝物質の違いからDNAウイルスとRNAウイルスに分類される。
微生物が宿主の体内に侵入して足場を得て増殖するようになることを感染という。多くの場合、感染によって宿主の組織には変化が生じ、抗体が産生される。しかし、微生物が単に体内に生存するだけの場合もある。感染に引き続いて病気になる場合を発病・発症・顕性感染(潜伏期保菌者・患者・病後保菌者)という。一方、症状が軽いかはっきりしないで終わる場合を不顕性感染(健康保菌者)という。
感染症発病までの期間を潜伏期という。
感染症ごとに一定の潜伏期をもっている。
近年、感染症に関する状況は大きく変化している。
エボラ出血熱・ウエストナイル熱・エイズ・C型肝炎などの新興感染症や結核・マラリアなどの再興感染症の出現などが特徴の一つである。
我が国における平成29年の新規HIV感染者は976人で過去11位、新規AIDS患者は413人で過去11位、新規HIV感染者の88%は性的接触(同性間の性的接触73%、異性間の性的接触15%)であった。後天性免疫不全症候群の感染はHIV感染段階で生じ、血液・精液・膣分泌液・母乳からの感染の可能性がある。世界の発生動向は東部・南部アフリカが最多、西部・中央アフリカが続いている。
結核の患者数は減少傾向にあるが、現在も年間約2万人の新規患者が発生するなど、我が国の主要な感染症である。平成29年末現在の結核登録患者数は39670人、同年中の死亡者数は2303人、罹患率は13.3で、イギリスの8.8、ドイツの7.0、アメリカ合衆国の2.7より多い。
上述した傾向を踏まえ、施行後100年を経過した伝染病予防法を見直し、1999年4月1日に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」が施行され、「伝染病予防法」「性病予防法」「エイズ予防法」が同時消滅、2007年4月には、「結核予防法」も廃止され、感染症法に位置づけられることになった。
なお、
下記1~4類の感染症、新型インフルエンザ等感染症を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出をしなくてはならない。
5類感染症のうち全数把握対象疾患については7日以内に届け出ることとされている。
また、都道府県知事は、1類感染症の蔓延を防止するため、必要があると認めるときは、入院を勧告することができる。
この規定は、2類感染症の患者にも準用することができる。
感染力、罹患した場合の重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性が極めて高い感染症。
クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、エボラ出血熱、南米出血熱、ペスト、痘そう(地球上から撲滅された)、マールブルグ病
感染力、罹患した場合の重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性が高い感染症。
急性灰白髄炎・結核・ジフテリア・重症急性呼吸器症候群(SARSコロナウイルス限定)・鳥インフルエンザ(H5N1)・鳥インフルエンザ(H7N9)・中東呼吸器症候群(MERSコロナウイルス限定)
感染力、罹患した場合の重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性が高くないが、特定の職業への就業によって感染症の集団発生を起こし得る感染症。
細菌性赤痢・腸管出血性大腸菌感染症・コレラ・腸チフス・パラチフス
動物、飲食物などの物件を介して人に感染し国民の健康に影響を与えるおそれのある感染症(人から人への感染はない)。
A型肝炎・E型肝炎・黄熱・Q熱・狂犬病・マラリアなど
診断後、直ちに届け出ることが義務付けられている侵襲性髄膜炎菌感染症・風疹・麻疹と診断から7日以内に全数の届け出が義務付けられているウイルス性肝炎(A型とE型を除く)・破傷風・後天性免疫不全症候群などがある。
また、定点施設からの報告に基づく定点把握疾患には、インフルエンザ、感染性胃腸炎、薬剤耐性菌のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症)が含まれている。
既知の感染症の中で、上記1~3類、新型インフルエンザ等感染症に分類されない感染症において、1~3類に準じた対応の必要が生じた感染症(政令で指定、1年間限定)。重症急性呼吸器症候群(SARSコロナウイルス)・鳥インフルエンザ(H5N1)・鳥インフルエンザ(H7N9)が、過去、指定感染症として位置づけられた。
人から人に伝染すると認められる疾病であって、既知の感染症と症状などが明らかに異なりその伝染力及び罹患した場合の重篤度から判断した危険性が極めて高い感染症。
都道府県知事が、厚生労働大臣の技術的指導・助言を得て個別に応急対応する感染症。
政令で症状などの要件指定をした後に1類感染症と同様の扱いをする感染症。
新型インフルエンザと再興型インフルエンザが含まれる。
両型ともに国民の生活・健康に重大な影響を与えるおそれのあるもの。
検疫所では、海外から検疫感染症が船舶・航空機を介して国内に侵入することを防ぐため、全国の主要な海港・空港で検疫業務を実施している。
検疫法により検疫感染症に指定されているのは、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、エボラ出血熱、南米出血熱、ペスト、痘そう、マールブルグ病(以上は1類感染症)、マラリア、デング熱、新型インフルエンザ等感染症、チクングニア熱、鳥インフルエンザ(H5N1)・鳥インフルエンザ(H7N9)・中東呼吸器症候群(MERSコロナウイルス)である。
ペスト・ワイル病・つつが虫病
野兎病
オウム病
日本脳炎・マラリア・デング熱・ウエストナイル熱・チクングニア熱・黄熱・ジカ熱
発疹チフス・回帰熱
つつが虫病・日本紅斑熱・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
感染症は、感染源・感染経路・感受性ある個体の存在において発生する。
これを感染症発症の3大条件という。
エイズ・梅毒・淋病・軟性下疳・鼠径リンパ肉芽腫症
狂犬病・そ咬症
破傷風・ガス壊疽
母親の疾患が母体の胎盤を経て胎児に感染する。
梅毒・風疹・B型肝炎・エイズ・トキソプラズマ症。
なお、成人T細胞白血病は母乳を通じて感染する。
インフルエンザ・ジフテリア・結核・発疹チフス・発疹熱・猩紅熱・麻疹・風疹
B型肝炎・C型肝炎
腸チフス・パラチフス・赤痢・コレラ・ポリオ・A型肝炎・ワイル病・角結膜炎
腸チフス・パラチフス・赤痢・食中毒・A型肝炎・E型肝炎
日本脳炎・マラリア・デング熱・ウエストナイル熱・チクングニア熱・黄熱・ジカ熱・発疹チフス・回帰熱・つつが虫病・日本紅斑熱・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
人獣共通感染症とも呼ばれ、ヒトとそれ以外の脊椎動物の両方に感染または寄生する病原体により生じる感染症である。
ペスト・サルモネラ症・狂犬病・結核・日本脳炎・インフルエンザなど
病院・医療機関で新たに細菌やウイルスなどの病原体に感染すること。
特に薬剤耐性の病原体や日和見感染によるものを指す場合が多い。
院内感染防止のために最も重要なことは医療者の手洗いである。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症・ノロウイルスなど
健康な動物では感染症を起こさないような病原体が原因で発症する感染症。
MRSA、緑膿菌、レジオネラ肺炎、カンジダ症、ニューモシスチス・カリニ肺炎、トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス感染症、レジオネラ肺炎
人工的に生体に抗原を投与して感染を免疫学的に防ぐことを予防接種(ワクチネーション)という。
予防接種法は、平成6年に法改正され、被接種者の責務規定は接種義務から努力義務に変更された。
また、平成13年には、集団予防目的に比重を置いた「一類疾病」と個人予防目的に比重を置いた「二類疾病」に類型化されたが、平成23年の法改正で、「一類疾病」は「A類疾病」、「二類疾病」は「B類疾病」に名称変更された。
沈降精製DPT不活化ポリオ混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・急性灰白髄炎)・沈降DT混合ワクチン(ジフテリア・破傷風)・乾燥弱毒生麻疹風疹混合ワクチン(麻疹・風疹)・
乾燥弱毒生麻疹ワクチン・乾燥弱毒生風疹ワクチン・日本脳炎・結核(BCGワクチン)・肺炎球菌(小児)・水痘・ヒブ(乾燥ヘモウイルスb型ワクチン)・ヒトパピローマウイルス
インフルエンザ(65歳以上か60歳以上で厚生労働省令に定める者)・肺炎球菌(高齢者)
予防接種ではワクチンが投与され、抗体が作られる。
生ワクチンは弱毒病原体を利用、不活化ワクチンは死滅した菌体の抗原を利用、トキソイドワクチンは弱毒化した病原体の毒素を利用する。