FontSize:
第10章 消毒法
1 消毒法一般
- 消毒法の定義
- 殺菌:特定の微生物を殺して安全にすること。
- 滅菌:全ての微生物を死滅させること。
- 微生物の大きさは
- 大腸菌は長さ1~3μm×幅0.5μmの長方形、ブドウ球菌は0.8~1μmの球形
- インフルエンザウイルスは0.1μm
2 消毒の種類
1)物理的方法
(1)熱
- 微生物の発育に適した温度は10~45℃
- 大部分の微生物は高温に対しては抵抗力が弱く、すみやかに死滅
- 病原細菌の多くは60~65℃、30分の加温で死滅
- 破傷風菌やボツリヌス菌などでは芽胞と呼ばれる厚い被膜で覆われている菌は100℃の加温に耐え、121℃、15分の高圧蒸気滅菌でようやく死滅
ア 乾熱
- 火炎滅菌法(焼却滅菌法)
- 火炎の中で加熱することによって微生物を殺滅する方法
- 対象物件は硝子・磁器・金属製品など、火炎により破損しない物品、並びに焼却物品
- ブンゼン(ガス)バーナー・アルコールランプの火炎中で数秒間以上加熱
- 乾熱滅菌法
- 160~170℃では120分、170~180℃では60分、180~190℃では30分の加熱
- 対象物件は硝子・磁器・金属製品など
- 滅菌用のオーブンを用いる。
イ 湿熱
- 煮沸消毒法
- 対象物件を沸騰水中に沈め加熱
- 効果を増加するため炭酸ナトリウムを1~2%加えることができる。
- 注射器・手術器具などの消毒に用いる医療用の煮沸消毒器:シンメルブッシュ煮沸消毒器
- 低温消毒法(パスツリゼーション)
- 100℃以下の温度(62.8~65℃など)でやや長時間(30分~数時間)かけて処理
- オートクレーブなどの滅菌処理で変質してしまう食品や牛乳など
- 平圧(常圧)蒸気滅菌法
- コッホの蒸気釜を使用
- 100℃の飽和蒸気中に30分暴露
- 硝子・磁器・金属製品など
- 芽胞には効果がない
- 間欠滅菌:1日に1回、30~60分×3~5回、芽胞に有効
- 高圧蒸気滅菌法
- オートクレーブ
- 高圧蒸気滅菌(121℃、2気圧、20分)
- 硝子・磁器・金属製品・プラスチック製品・医療器具など
(紫外線+赤外線)
- 日光消毒法
対象物件は寝具・衣服など。
- 紫外線消毒法
- 殺菌灯・紫外線保管庫など
- 施設内の空中殺菌・物品表面の菌・医療器具(紫外線保管庫)など
- 紫外線はたんぱく質を変性
- 皮膚へのダメージ、(患者の皮膚に照射するのは適切ではない)
- 目に対しては雪眼炎・電気性眼炎・白内障・翼状片などのリスク
- 放射線殺菌法
- γ線・X線などを照射
- プラスチック・ゴム・ディスポ製品など
(3)高周波
- 高周波を直接照射して熱で微生物を死滅させる
- 水・微生物検査の培地・試液など
(4)濾過
- 微生物よりも小さな孔径をもつ濾過フィルターで菌を除去
- 無菌室の空調設備で使用される特殊フィルターなど
2)化学的方法
(1)フェノール類
- 石炭酸(フェノール)
- 医学史上、最初に用いられた消毒剤
- 人への刺激作用が強いので最近はあまり使われない
- 消毒剤の効力を示す指標として石炭酸係数を用いる
- 対象物は喀痰・排泄物など
- 芽胞・ウイルスには効果がない
- クレゾール石けん液
- クレゾール石けん水(石けん水+クレゾール)
- 時間とともに消毒力が低下する(日に1度は交換する必要)
- 特有の刺激臭と皮膚刺激性
- 最近はあまり使われない
- 対象物件は皮膚・手指・喀痰・排泄物
Kli>芽胞・ウイルスには効果がない
- 陽イオンによる殺菌作用(普通の石けんは陰イオンによる洗浄作用)
- 市販品として塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど(10%溶液)
- 普通の石けんと混ざると化学反応を起こし効果が低下
- 有機物存在下でも効果が低下する →喀痰・排泄物など汚物の消毒には使用不可
- 対象物件は皮膚・手指
- 芽胞・結核菌・一部のウイルスには効果がない。
(3)アルコール類
- エタノール
- 対象物件は皮膚・手指
- 70~80%の濃度が最も強い殺菌力
- 毒性がほとんどない
- 注射や手術時の皮膚消毒など
- 殺菌力は蛋白質の混入により低下
- 消毒部位が乾燥した状態で用いるべき
- 芽胞・一部の真菌には効果なし
- イソプロパノール
- 30~50%の濃度で使用
- エタノールより殺菌力が強い
- 皮膚や眼に対する刺激性がかなり強い
- 工業用・清掃用品の溶剤として多用
- 芽胞・一部の真菌には効果がなし
(4)塩素系消毒剤
- 塩素ガス
- 強い漂白・殺菌作用
- パルプや衣類の漂白剤・水道水・プールの殺菌剤として使用
- 気体としてではなく次亜塩素酸ナトリウムの形で利用が多い
- さらし粉
- 対象物件は井戸水・プールの消毒
- 塩素ガスと同じ反応
- 次亜塩素酸ナトリウム
- 次亜塩素酸ソーダとも呼ばれる
- 上水道やプールの殺菌にも使用
- 家庭用ではハイター、洗濯用・キッチン用・哺乳瓶の殺菌用などにも使用
- 一般細菌に加えてB型肝炎ウイルスにも有効
- 大量の有機物存在下では効果が低下
- 金属腐食性があり
- クロルヘキシジン
- 対象物件は皮膚・手指・器具・病室内など
- 有機物存在下でも有効
- 普通石けんとの併用により殺菌力は低下
- 過敏症の人がいる
- 芽胞・ウイルス・結核菌・一部の真菌には効果がなし
(5)ヨウ素系消毒剤
- 作用機序は塩素系と同じ
- 塩素系よりも強い殺菌力
- B型肝炎ウイルス、一部の芽胞・一部のウイルス・一部の結核菌には無効
- ヨードチンキ
- 対象物件は手術野の皮膚や創傷面
- 刺激が強いのですぐにエタノールで拭き取る
- ルゴール液は、液に甘みと粘性を加え、咽頭に塗布して消毒
- マーキュロクロム液は赤チン、ヨードチンキはヨーチン
- 現在は、ポビドンヨード液が多用
- ポビドンヨード
- 対象物件は皮膚・手指
- イソジンとして市販
- 皮膚や粘膜への刺激が少ない
- うがい薬としても
(6)重金属類
- 水銀・銀・銅など、重金属を用いた消毒剤
- イオンの状態で強い殺菌力
- 人に対する毒性が強い
- 環境汚染問題から今日は使用されない
- 塩化第二水銀(昇汞)・マーキュロクロムなど
菌体蛋白質の凝固作用による殺菌
- ホルムアルデヒド
- 人体には急性毒性があり、蒸気は呼吸器系・目・喉などの炎症を引き起こす
- 37%の飽和溶液が「局方ホルマリン」
- 消毒用としての1%溶液が「局方ホルマリン水」
- グルタールアルデヒド
- 大部分の微生物に対して有効
- 高圧滅菌のできない手術器具・カテーテル・内視鏡などを対象
- 人に対する消毒には適さない。
(8)酸化剤
- 遊離した活性酸素による殺菌作用
- 3%過酸化水素水(オキシドール)が創傷面の消毒に広く用いられている。
- 芽胞・真菌・一部のウイルス・一部の結核菌に無効
(9)色素類
- アクリノール・リバノールなどが創傷面の消毒に用いられ、一般細菌に効果
- 化学薬剤をガス状にして噴霧し微生物を死滅させる
- エチレンオキサイドガス
- ゴム製品・プラスチック製品・ディスポーザブル製品を対象
- 化学的消毒剤唯一の滅菌法
- 発癌性の報告
3 消毒剤の効果区分
(1)万能(B型肝炎ウイルスにも有効)
- 高圧蒸気滅菌法
- 次亜塩素酸ナトリウム
- ホルムアルデヒド
- グルタールアルデヒド
- エチレンオキサイドガス
- 火炎滅菌法
- クレゾール石けん液
- 逆性石けん
- クロルヘキシジン
- エタノール
- ポビドンヨード
(3)芽胞に効果がある
(4)ウイルスに効果がある
- エタノール
- ヨードチンキ
- ポビドンヨード]
- 逆性石けん
- オキシドール
(5)結核菌に効果がない
逆性石けん・クロルヘキシジン・(ヨードチンキ・ポビドンヨード・オキシドール)
(6)真菌に効果がない
オキシドール・(エタノール・クロルヘキシジン)